short dream

□会いたいよ
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夜中。
ベッドの中でゴロゴロしながら、暗闇でいじる携帯の画面をただ私はじっと見つめていた。
そして1つ、はぁと深いため息をついた。



画面には、志摩柔造の文字。
私の彼氏、である。といっても、私は多分ただの妹的存在なのかもしれない。


彼との出会いは悪魔払いの仕事の時、たまたま京都で仕事があった私が数日間だけ、柔造直属の部下になったことがきっかけ。

…と言っても、私たちは年齢も違えば級も違うわけで、相手にはただ少しだけ小馬鹿にされ…つまり本当に自分を彼女と思ってくれてない気がして。
何故なら、告白したのも手をつないだのも私からだったから。




「はぁ……」
また小さくため息をついた。
画面が少しだけ吐息で曇った。それをただ見つめていた私は少しだけ眉間を寄せる。



彼は仕事だから、出れないのは当たり前だろう。
でも、もう3ヶ月も会ってない。ただ文字と、言葉の掛け合いだけ。

別に会いに行きたいなら、何の問題もなく会いに行ける距離ではあるが。それは少しだけ、気が引けてしまって無理だった。


3週間、我慢した。

彼が向こうから私に電話を掛けてきてくれるかどうかと。
押してダメなら引いてみろ作戦だ。でも、彼からは一向に掛かってくる気配はナシ。

もう我慢できなかった。会えなくて会えなくて悲しいのに声まで聞けないのは、流石に涙が出そうなほど。







電話、したい。
今すぐにでも。この身だけでもいいから、飛び出して、彼に会いたい。




少し、電話するだけでしょ?
それくらい、許してくれるでしょ?




私は震える親指で、通話ボタンを弱々しく押した。
ガラケーらしい、ポチッという音が虚しく部屋に響き渡る。






プルルル、プルルル。

出てくれなくても。


プルルル、プルルル。

良いだなんて、思わない。


プルルル、プルルル。

ねぇ、どうして? こんなにも会いたいと願うのは、


プルルル、かちゃり。


私だけなの?








『…雲雀?』

「…久しぶり、だね」




受話器から聞こえる、彼の声が少しだけ掠れてるように聞こえた。
でもそれは、暖かくもなく、冷たくもなく。抑揚をつけず、ただサラサラと流れてゆく。



『ははは、久しぶりって、会ってもおらへんのに』
「ははっ、うん、そうだね……」


そう、いつも柔造は、私が少し可笑しいことをいうと普通に笑ってくて。
そこが私の、居場所になってた。









『どうしたん?』



その一言が、私の心に水をさした。
瞬間、泣かないと決めたはずなのに、涙が込み上げてきてしまって。
口を突いて出た言葉は。





「っ、柔造ぉ……」
『何? どないしたん!?』



「会いたいよぉ………」





弱音なんて絶対吐かないって、決めたのに。泣かないって決めたのに。
出てきた言葉はただそれだけで、嗚咽で喉から言葉は出ない。






『ごめんな…あと少しだけ、待っててくれへん?』
「…ふぇ……っ、ひっ」



その言葉も、もう何回も聞いたよ?
待っててくれへん? っていってもうどのくらいかな?
近づいたらもっともっとあなたは離れていってしまうの。
まるで私を拒んでるように。



でも私は弱いから。

ただうんとしか、頷けなくて。






「…うん、っ待ってるから……絶対帰ってきて」
『ごめんな…雲雀』





幾度も繰り返されるこの言葉に、偽りは無いと信じたい。
そして、電話の終わりを告げる四文字が、




『愛してる』


聞こえたときには、もう遅い。







会いたいと、願っているのは私だけなのか。
強くなりたいって、大人になりたいって願って。
でもあなたは全然、寂しくなさそうなの。
求めるのは、いつも私ばかりで、本当にあなたは何も思ってなさそうで。


大人になろうと背伸びしたけど
脚が縺れてダメだったんだよ
無理をしても 寂しさは消えないし
ムナシサマシタだけだったんだよ

ねぇ今、何を思うの?
その心に私は居る?





このフレーズが、頭から離れなくて。私は今日も彼を思う。

叶わない愛なのかもしれない。でもそれを夢見て、私は濡れた瞼を静にとじた。

























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あべまさんの会いたいよという歌をベースに。


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