Φ・ブレインブック

□馬鹿野郎。
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 手がかかる。

 全く、困った奴だ。

 
「ギャモンっ!!」

「おぅ、アントワネット。どうしたんだよ」

「どうしたもないわよ! あんた、死にかけたのよ、分かってる!?」

「あー、はいはいそうですね。カイトの野郎に助けられた敗者ですが何か用か」

 支柱パズルからやっと脱出したと思ったら、待ち構えていたようにエレナが立っていた。このパズルに勝ったカイトは、もうここにいない。ノノハたちを連れて、さっさと帰ったのだろう。

(それにしても、あいつ……。俺を、助けて、勝ちやがった)

 あの支柱パズルは、俺が作った最高傑作のはずだったのに。カイトは『パズル』を解いた。俺の救済も頭に入れて、俺に勝ったのだ。

 ――それも、腕輪の力を借りずに。

(流石の俺も、あれは予想外だったぜ……)

 何を思ったのか、カイトは自ら腕輪を捨てた。もしカイトが腕輪の力にのみこまれた状態で俺と勝負をしていたら、俺は、確実に死んでいた。今頃俺は、自分の作ったパズルに閉じ込められて死んでいただろう。だが、カイトは自分の力で俺を完膚なきまでに倒して、そして。

(はっ、これで俺とお前の条件は同じになったってか。クソ野郎)

 カイトはもう腕輪に振り回されることもないだろう。

(その方が、倒しがいがあるってもんだ)

「……ガリレオ」

「ああ? だからなんだよ」

 一人で考え込んでいたら、隣にいるエレナがにやにやとこちらの顔を覗きこんできた。

「今、アインシュタインのこと「カイト」って呼んだでしょー」

「はあ?!」

 エレナが言ったことの意味が分からず、眉をひそめる。エレナは、「もう、皺寄ってるじゃない」と言って、眉間に手を伸ばしてきた。

「やめろ」

 伸びてきた手を止めようと、咄嗟にエレナの手首を掴む。あっ、と小さい悲鳴をあげてバランスを崩したエレナは、俺のほうへ倒れてくる。まずいと思って受け止めたら、エレナの髪の毛から甘い匂いがふわりと漂った。

「ッチ。危ねえじゃねーか。余計なことすんな」

「そ、それはこっちの台詞よ! なに乙女に気安く触ってんのよこの鈍感男!」

 耳まで赤くなったエレナはキャンキャンと騒ぎながら手首を掴んでいた俺の手を振りほどき、距離をとる。喧嘩売ってんのか! と半ば憤って睨みつけると、エレナは一瞬びくついたが、俺を睨み返した。

「あんたなんて鈍感男よ! 私はね、あんたがアインシュタインのこと、カイトって名前で呼んだから、だから――あんたがまだ友情捨ててないんだって、確認したかっただけなんだから!」

 もう知らないッ! と手首を押さえながらエレナは俺の前から去って行った。俺は茫然と、エレナの後ろ姿を眺める。

(あ? カイト?)

 まあ、そういえば、あいつをカイトって呼んだのは確かに久しぶりだった。エレナに指摘されなかったら気づかなかったのだから、多分無意識に言ったのだろうけど。



 ――本当、世話がかかる奴だ。

 ――いつまでも、楽観的でお人よしなバカイトのくせに。

 ――馬鹿野郎が。



(ミハルの奴、飯ちゃんと食ってるんだろうな……)



 カイトのこととは全く関係ないことを考えてみても、口元が少し緩むのは、どうしても抑えられそうになかった。

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