BOOK テニプリ

□流した涙は、君を想うから
1ページ/4ページ





 大学から、家に帰る途中。またか、と心の中で舌打ちをした。「開かずの踏み切り」と噂されるこれに掴まった回数は、今月入ってもう両の手に収まらない。赤く点滅する踏み切りを見つめながら、そういえば中学の頃もこの踏み切りに足止めを食らったと思い出す。   

――白石は気にしすぎやねん。
――謙也は馬鹿やけど、ええ子やで。
――せやから、自分は告白でもなんぼでもしよったらええやん。

 ふと、その時チームメイトだったバカップルに言われた言葉が不意に蘇って、胸を締め付けた。せやなあ、と笑って流してそのあげく、謙也に避けられることが怖くて自分から何も行動できなかったけれど。あの時、自分が謙也に告白していたら何かが変わっていただろうか。

(アホらし)

 都合のいいことを考えた自分が嫌になって、自嘲的に呟く。たとえ告白したとして、何が変わったというのだろうか。恋人になれたと? もっと親しくなれたと? ……どうせ、気まずくなって友人とすら呼べなくなっていただろう。

(どっちにしろ、今がこれならそれもありだったかもしれへんけどな)

 高校、大学と進むにつれ、互いの進路が同じなわけない。謙也は高校卒業後、医学系の大学に進学。俺は、薬学の勉強をするために私大に決めて、一発合格を果たした。高校まではなんとか謙也と一緒にいられたけど、大学が違う今、彼と会う機会なんてない。

(謙也、彼女おるんかなー)

 カンカン、とどこか遠いところで音が聞こえた。




 初めは、自分ひとりの片思いだった。中学のとき、顔は悪くないのにモテなくて、なんや残念な子やな、と思ったのが出会いだった。忍足謙也は面白い奴。第一印象はそんなものだった。それから、テニス部に謙也が入部して、そこで知り合って。ええ奴だと思って、勝手に惚れた。

「白石は、謙也のことば好いとうね」

 中学最後の年に九州から来た千歳と、俺は仲良くなった。仲良く――いわゆる、恋人もどきだった。俺の謙也への片思いはもう二年は過ぎていて、謙也への思いがそろそろ自分でも抑えきれなくなった頃、千歳が声をかけたのだった。

「は? 節穴ちゃうんか、お前の目」

「よかばい。別に、隠さなっても」

「アホか。大体、謙也は男やろ」

「俺は、男でもかまわなんね」

「っ……!」

「白石、謙也の代わり、欲しくなか?」

 俺は、千歳の言葉に、頷いてしまった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ