BOOK テニプリ
□ふんどしの日ッ!
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ある日の深夜、二時。
「いいこと聞いちゃったなー」
パソコン画面を睨みながら、にやりと笑った悪魔の笑みの意味を、まだ彼らは知らなかった――。
「あ、ずりー! ブン太先輩、チョコたくさんもらってるし!」
可愛くラッピングされた箱を両手いっぱいに抱えながら部室に入ってきたブン太に、赤也が大きな声で非難する。
「ああ? こんなん、日ごろの行いだろぃ。ま、ほとんどが義理チョコだけどなー」
にっしっしと笑ってチョコを大事そうに見るブン太に、ジャッカルが「ちなみにこいつ俺のもとってったけどな、」と毒つく。
「こまかいことはいーだろ、ジャッカル」
「ちなみに、学校にチョコは、本来規則違反のはずなのですがね」
「とかいいつつー。お前だってチョコしっかりもらってんじゃねーの? 見たぜー。校舎裏で告白されてる柳・生・君・を」
「……気持ち悪いですねその言い方。私はもちろん断りましたよ、いま女性とお付き合いする気なんてありませんから」
律儀に答える柳生に、ブン太は目を丸くして柳生を軽くなじる。
「馬鹿じゃないのか、おまえー。そこはありがたく貰うのがふつうだろぃ」
「やぎゅーのどこがいいんじゃろなー」
「に、仁王君!」
柳生の後ろにいつの間にかいた仁王が声をかける。柳生は何故か頬を上気させ、いきなり現れないでくださいと文句を言った。
「大体、あなたって人は……っ! ……っく!」
「なんじゃーやぎゅー。何を言いたいんかのー。んー?」
にやにやと柳生を突いて反応を面白がる仁王を見て、赤也がげえっと声を漏らす。
「なーんか最近、柳生先輩と仁王先輩が怪しい雰囲気なんすけど。あれなんですかねー」
「……深く関わることはやめたらいーと思うぞー。あっちの道は業が深いもんだ」
「ブン太……。部活前にチョコ食うのはやめておけよ」
ジャッカルが大きな溜め息を吐いた。
と、そこで部室の扉がばんっと大きく鳴って開いた。
「なんだよー。真田副部長じゃ……」
「ふふ、何を言ってるんだい。赤也。俺だよ☆」
「ゆ、幸村ぶちょー!!」
そこには、予想に反して悪魔の笑みを湛えた幸村がいた――。
「――さあて、皆。今日が何の日か知っているよね」
にこにこと謎の笑みを作った部長に、部員たちは微妙な表情で頷く。
「二月十四日っていったら、まあ」
「あれだけ隣でこいつがチョコもらってればな……」
「なんだよジャッカル。文句あるのかコラ」
「本来はチョコを贈る習慣ではなかったはずなのですが……」
「プリッ」
幸村はそう! と部員の顔を見ながら大きく肯定する。
「今日は世に言う聖なるヴァレンタインデーだ!」
「……まあ、そうっすよね」
「だが、俺はそれを否定する!」
「は?」
「――幸村君が変なスイッチ入った……」
ブン太が板チョコをぱきんっと折って口に含み、白い目で幸村を見る。
「では、何の日なんですか?」
「よくぞ言った、柳生」
ぱちんっ、と指を鳴らし幸村は柳生を指差す。心なしか浮かれている幸村のテンションに、柳生がたじろいた。赤也は冷や汗をかき、仁王も珍しく焦っているのか、しきりに自分の毛先をいじっている。こんなとき、幸村が絶対何かしらを企んでいることを知っているからだ。幸村はそんな面々を見てみぬふりをして、言った。
「二月十四日は――ふんどしの日だ!」
「「「「「はあっ?!」」」」」