BOOK テニプリ
□君がいない今
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夢を見た。
『ユウくん』
あの人は、俺のパートナーのあの人はそう、自分のことを親しげに呼んで。
俺は、その横で笑っている。
『ユウくん、あのな』
愛しい、愛しいその人は、口元に薄い笑みを浮かべながら、自分に言う。
『ほんまはユウくんのこと、大嫌いなん』
その笑みは、憎悪と軽蔑と嫌悪が入り混じった、ものだった。
『だから、ユウくんの前から消えるな』
なあ、小春。
俺、お前が俺のこと嫌いやったと知っとったんやで。
それでも俺はお前の傍に居たかった。たとえそれが俺のエゴだったとしても。
俺は、お前と一緒なら、どうでもよかったんや。
『ユウくん』
俺の言葉に、彼はゆっくりと顔を歪ませる。
『アタシな、ユウ君のそういうところが、大嫌いねんで』
俺は、その言葉に――
「――――っ!! ――――っあああああああああ!!」
言葉にならない叫びが、口から漏れた。わけも分からない大量の汗が全身から吹き出る。ばくんっ、と波打つ心臓が壊れそうなほどの痛みを告げ、俺はベッドの上でのたうちまわった。
「――っめんなさ、小春、ごめんなさっ」
ごめんなさい、と夢の中で出会った――きっともう出逢えないであろうその人に、言った。知らずうちにぼろぼろと大粒の雫が頬を伝って落ちていく。視界がぼやける。
「小春、小春、こはるっ!」
ぎゅっと、痛む心臓を止めようと胸を押さえる。何度こうして涙を流しただろう。あの人が、小春が消えて、一体どれくらいが経つのだろう。泣き叫ぶのにも、喉が枯れていては何もでない。
「こはっ! 小春っ!」
「先輩、」
その時ふと、隣で声がした。半年前から同棲している中学時代の後輩……財前光が、つらそうに自分を見ている。そういえば昨日彼と共に眠りについたなあ、とおぼろげな記憶を漁った。
「先輩、また小春さんの夢、見たんですか」
「ざい、ぜん」
「泣くな、泣くんやないっすよ。あの人がおらんのは、あんたのせいやない。も、ええ加減泣き止めや」
財前はそう言って、ふわりと俺を背中から抱きしめた。まるで小さい子をなだめるように頭を撫でるから。無性に彼にすがりつきたくなった俺は、回された財前の手を握り、目を瞑った。