BOOK テニプリ

□堕ちて行く
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 絶望。それしか残らなかった。

 どうでもよくなった、とでも言えばいい。


「――っ」

 嗚呼。あいつの声がする。

 後悔が。後悔があるというなら、お前も巻き込んでしまったことだ。

 泣くなよ。

 俺は、もう浮かび上がる資格すら、ないのだから。







「――スッ! キースッ!」


 目を開くと、あいつの泣き顔があった。


「……シウ」

「おっ前、馬鹿か! 後ろ向きで川に落ちるなんて……っ」

「馬鹿はお前だろ。怪我してるのに。まさか、俺を追ってくるなんてな」


 ははっ予想外だった、と笑ってみせた。それはとても、乾いた笑いだった。


「っ」

「どうしたんだよ、」

「俺はっ!」


 シウは顔を歪めて、肩を掴む。


(また、泣きそうな顔……)


「俺はっ、何があっても、お前を失うことより大事なことなんてねーんだよっ! だからっ」

「おかしな奴だな。俺のせいで、お前も堕ちたっていうのに」

「違うっっ!」


 がんっ、と肩を橋に抑えつけられた。痛い。

 それ以上に、シウの表情のほうが、痛かった。

 痛々しい。

 その顔は、俺がさせているのだろうか。


「お前が、お前が堕ちるっていうならっ。俺も一緒に堕ちるから、だから」


 もう俺をおいていくようなことはするなよ。


(馬鹿な奴)


 いつも勝気で、出会った頃から泣き言をいったことのないような、こいつなのに。

 ――俺のせいで、こいつを狂わせたんだ。

 不思議と笑いがこみ上げてきた。口から出る笑いは、やっぱり乾いていたけれど。







 一緒に堕ちようか、シウ。もう浮かび上がれないなら、せめて。


 お前の温もりだけでも、感じていたいんだ。
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