BOOK テニプリ

□突発的
1ページ/1ページ


 憎い、という感情をはじめて知った。

 嫉妬。
 
 それはもう、どうしようもなく真っ黒でどろどろしていて。


 湧き上がる衝動と、抑えのきかない欲望が身体を支配していた。自分ではどうしようもできないそれを、見てみぬふりをするのは正直しんどい。


 阿呆だな、と自嘲気味に自分を笑った。


「先輩。」

「あ? なんや、お前まだいたんか。」

「――先輩こそ、こんな時間まで部室でナニやってたんすか」

「……お前には関係ないやろ。それともなんや、小春と俺のいちゃいちゃライフでも聞きたいんか? ん?」

「関係ない、ね……」


 なんでもないように笑う先輩は、俺の気持ちなんか知りもしないのだろう。

 汗で汚れた練習着を脱ぐ先輩の首筋には、赤く腫れ上がったあとがあった。キスマークだ。

 これを見せられて、俺がどんな思いでいるのかも、この人は知ろうとすらしないのだ。


「先輩、キモイっすわ」

「なんやとっ」

「もうやめたらええやないですか。そないなことしても、小春さんは振り向かないっすよ」

「……知っとったんか。」


 この人は馬鹿だと心底思う。試合では小春さんと仲いいように見せても、結局はこの人の片思いだ。

 小春さんは先輩を好きになったりはしない。
 あくまで、パートナーなのに。

 ユウジ先輩は、小春さんに振り向いてほしくて毎回違う男と寝たりするのだ。


 この人は、そういうヒトなのだ。


 ――嫉妬を煽るつもりか。煽られた相手は俺やったけどな。


「先輩は誘われたら誰とでも寝るって、ほんまですか?」

「はあ? 俺をインランみたいに……。相手は選ぶやろ、そりゃ」

「じゃあ、俺は先輩の好みやないんすか?」

「っんな?!」


 怪訝な顔をして俺を見てきた先輩に、俺はムリヤリ唇を重ねる。驚いた顔しよった。よう考えてみたらこの人のおどけてない顔なんて、見たことあったっけ。


「っんん……」


 目を見開いて抵抗しようとする先輩をロッカーへ押しやり、口を開かせ舌を這わした。



 ――先輩に触れたその味は、甘く切なく苦々しくて。


 今までの関係も、なにもかもをぐちゃぐちゃに壊してしまいたい。


 ユウジ先輩の全てをさらっていきたい、と。



 そんな思いを知った、蒸し暑い八月の日だった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ