BOOK テニプリ
□突発的
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憎い、という感情をはじめて知った。
嫉妬。
それはもう、どうしようもなく真っ黒でどろどろしていて。
湧き上がる衝動と、抑えのきかない欲望が身体を支配していた。自分ではどうしようもできないそれを、見てみぬふりをするのは正直しんどい。
阿呆だな、と自嘲気味に自分を笑った。
「先輩。」
「あ? なんや、お前まだいたんか。」
「――先輩こそ、こんな時間まで部室でナニやってたんすか」
「……お前には関係ないやろ。それともなんや、小春と俺のいちゃいちゃライフでも聞きたいんか? ん?」
「関係ない、ね……」
なんでもないように笑う先輩は、俺の気持ちなんか知りもしないのだろう。
汗で汚れた練習着を脱ぐ先輩の首筋には、赤く腫れ上がったあとがあった。キスマークだ。
これを見せられて、俺がどんな思いでいるのかも、この人は知ろうとすらしないのだ。
「先輩、キモイっすわ」
「なんやとっ」
「もうやめたらええやないですか。そないなことしても、小春さんは振り向かないっすよ」
「……知っとったんか。」
この人は馬鹿だと心底思う。試合では小春さんと仲いいように見せても、結局はこの人の片思いだ。
小春さんは先輩を好きになったりはしない。
あくまで、パートナーなのに。
ユウジ先輩は、小春さんに振り向いてほしくて毎回違う男と寝たりするのだ。
この人は、そういうヒトなのだ。
――嫉妬を煽るつもりか。煽られた相手は俺やったけどな。
「先輩は誘われたら誰とでも寝るって、ほんまですか?」
「はあ? 俺をインランみたいに……。相手は選ぶやろ、そりゃ」
「じゃあ、俺は先輩の好みやないんすか?」
「っんな?!」
怪訝な顔をして俺を見てきた先輩に、俺はムリヤリ唇を重ねる。驚いた顔しよった。よう考えてみたらこの人のおどけてない顔なんて、見たことあったっけ。
「っんん……」
目を見開いて抵抗しようとする先輩をロッカーへ押しやり、口を開かせ舌を這わした。
――先輩に触れたその味は、甘く切なく苦々しくて。
今までの関係も、なにもかもをぐちゃぐちゃに壊してしまいたい。
ユウジ先輩の全てをさらっていきたい、と。
そんな思いを知った、蒸し暑い八月の日だった。