BOOK テニプリ
□雨のあとに
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ひどく、雨が強い日のことだった。
「ごめん、」
そう呟いた言葉は、痛々しいほど切なくて。
「俺な、謙也のことが――なんや」
俺はあいつが言った大事な部分を、雨音のせいにして聞き逃した。
「白石ーっ! 財前の奴がひどいんやで! あいつ、先輩に対する態度がなってへんやろっ。部長として注意してくれへんかっ」
「あんなぁ、俺やて金ちゃんのことで精一杯なんやで謙也。あいつかて、やることはようやるいい後輩やん。お前が悪かったんちゃうの?」
「そうっすよ、謙也さんがあほやから邪魔や言うただけやないっすか。ほんっとう、まじウザイ」
「なっ」
俺と財前の話に、白石が笑う。
いつもと変わらない、日常だ。
「じゃあ、俺はちょっとオサムちゃんに用事あるから職員室行くわ。謙也、あと頼んだで」
「おう」
白石は普段どおり完璧に仕事をこなす。
それがこの学校のテニス部の聖書やから。
そう、あいつは完全無欠の部長。
(だからこそ、あの日のことが頭から離れんのや――)