ダンボール戦機ブック
□馬に蹴られてなんぼのもんじゃ
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「……ダイキ君」
「ぁあ゛?」
「あのね、僕は暇じゃないんだから。そろそろちゃーんと、仲直りしてきなさい」
うっせ、と吐き捨てるとユジンは盛大に大きく溜め息を吐いた。そりゃ、悪いとは思う。思っては、いるのだ。ユジンはこれでも一応、社会人であるのだし。こうして、ユジンのところでいつまでも居候しているわけにはいかないってことは分かっている。
(でもよー……)
それでも仙道は、どうしてもここから離れられない理由があった。
それは、遡ること一週間。
ミソラ中のスラムに、偶々(本当に偶々だった。偶々、ナイトメアでLBXバトルにくりだしていただけだった。)寄ったから、折角だから郷田に声をかけていこうと思った。郷田はムカつく野郎だし、一時的とは言え、人のことを勝手に「舎弟」呼ばわりしていたくそったれだ。でも、どこかでソレを許していた自分がいて、まあ、ぶっちゃけた話、俺は郷田のことを――その、気に入ってるらしい。
(って、気色ワル……ッ!)
無意識に火照る顔に心底身震いする。これは勘違いなんだと自分に言い聞かせ、スラム奥にある郷田の部屋の扉を半ば八つ当たりで大きく音を鳴らして開けた。
「おい、郷田! 俺と勝負して今度こそ決着、決めようじゃないか……っ?」
鉄さびの匂いが僅かにする部屋を見る。そこには、郷田がいつものようにふてぶてしく座っていてる、のだが。
(は?)
「せ、仙道っ?! ちょ、お前等そこどけっ!」
「えー。郷田君、今からがいいところでしょう」
「そーよー。もっと私たちを楽しませてくれなきゃ、つまんないじゃない」
目に映った光景は、郷田がショートカットのスポーツ系の女と、セミロングの黒髪美女をはべらしている図だった。しかも女たちは、ギャルっぽい服を若干乱して、肩がしっかり見える状態で郷田にのしかかろうとしている。対する郷田は――いつも通りの服装、つまり、上半身がもろ見えになっていて。
(どう考えても、今からイタしますって格好じゃねーかっ……!)
「どけって、おい! 仙道、これは違くてだな、」
「郷田君連れないー」
「もう、ハンゾウって呼ぶぞー」
「だああああっ! うっさい!」
女の甘ったるい声と、何故か焦る郷田の姿があって、苛立ちがピークに募ってきた。
(見せつけたいのか、こいつっ!)
「仙道、あのな、」
「てめえなんざ知るかっ! こっんの、色ボケ野郎っ!」
そして俺は、郷田の頭を殴りつけて、駆け足でその場を去り、郷田と絶対顔を合わせず、かつ、絶対見つからない場所――ユジンの家になだれこんだ。
「頑固だよねえ、ダイキ君」
「ほっとけ。俺は、あんな学校で発情している馬鹿の顔を二度と見たくねえだけなんだよ」
「それが本音?」
何が言いたいんだ。ユジンに睨みをきかすと、ユジンは肩をすくめた。普段からかけているビン底眼鏡がきらりと光って、何でも見透かされている気分になり、眉間に皺を寄せる。
「郷田君が好きだから、嫉妬したんでしょ」
「はぁ?!」
「ほら、今一瞬焦った顔したもん。あたりだよね。だったら、郷田君に直接言わないと……。告白もしてないんでしょ、全く」
「違っ――」
「ということで、本人を呼んでみましたー」
え? とユジンが言った意味が分からず声を漏らすと、ピンポンとマンションのベルが鳴った音が部屋に響いた。
「開いてるからどうぞー」
「……邪魔しまっス」
聞き覚えのある声に玄関のほうを見れば、会いたくない奴、郷田が立っていた――。