BOOK テニプリ
□流した涙は、君を想うから
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「……ッ! あんっ……」
「――可愛いんね、白石」
「アホ……ッ」
千歳と俺は、利害が一致した恋人――下世話な話、世間一般で言うセフレだった。千歳が俺を抱いて、俺は千歳で謙也への思いを昇華した。そこに恋とか愛とか酔狂なほど甘い関係はなく、ただあるのは、思春期の男子が持つ欲望だけだった。
部活が終わって、皆が帰った部室。千歳の部屋。保健室。シャワー室。俺の部屋。千歳は俺を誘うのが上手かった。俺が謙也の恋情でどうにかなってしまいそうなとき、決まって千歳が声をかけた。タイミングよく。それこそ、俺の心が読めているのではと、疑ってしまいそうになるくらい。
「お前は、ほんま、ヤることしか興味ないんか」
情事を終えた気だるさで、千歳の布団にもぐりこみながら俺は千歳に言った。
「白石ば、人のこと言えんけんね」
「なんや、それ」
「俺とヤってるとき、いつも『謙也、謙也』って喘いどるばい。謙也とヤりたくて仕方ないんやね」
ぼっと顔が熱くなるのを感じる。「ほんまか?」と確かめると、千歳はにやりと笑ってきた。
「謙也も勿体なかね。こんな可愛い白石ば、食わず嫌いしよるなんて」
「なんべん言わせるんや。謙也はノンケなん。俺なんか眼中にないっちゅーねん」
「ばってん、食ってみれば美味かもしれんばいね?」
「うっさいわ、アホ」
したり顔で俺を見る千歳の顔に、枕を投げた。見事に命中したが、落ちた枕の横に大量の使用後ティッシュが散らばっていて、思わず目を逸らす。
「こぎゃん関係、謙也が知ったらどうする?」
試すように言われた俺は、千歳と目を合わせずに眠りについた。
千歳との恋人ごっこは続いていた。そんなとき、謙也が「千歳と白石が付き合ってるってほんまか?」と、俺たちの仲を詮索してきた。
「あんなー、謙也。噂か、それ」
「クラスの女子が騒いどるん、聞いてしもてな。で、ほんまなんか、それ」
「噂は噂やっ……」
「そうばい。白石と俺はただならぬカンケイってやつけん」
「千歳ッ!」
突如乱入してきた千歳に、鋭い視線を遣る。怖い怖い、と肩をすくめて去る千歳。冗談やからな、と慌てて謙也に釘をさすと、謙也は面食らったように「おん、」とだけ言った。