翡翠さん・短編

□私からの挑戦状
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…ここに来て、数ヶ月だけど、怒涛のように過ぎていっているよねぇ。
窓の外に降る雪をぼんやりと眺めながら、花梨はシミジミと思った。
龍神の神子として、四神を解放し、八葉達に認められ、明王の札探しをして…。
ついこの間まで普通の女子高生やってた女の子が、こんな世界を救う、みたいな事をやってのけているのだ。不思議に思わない訳はない。
あと少しで、この世界を正しい方向に向く事が出来る…はず。
そんなところまでやってきたのだ。
…まあ、私だけの力じゃないけどね。
花梨は頼もしい仲間の顔を思い浮かべた。
始めは院側と帝側に別れて争っていたのに、今ではすっかり打ち解けていた。
多分ほんの些細な事が争いの種になり、それが大きくなっていくのだろう。
だから、そうならないように、お互い歩み寄る努力をしていかなくては、という事を、花梨は八葉から教えてもらったように思えた。
…いや、まだあと少し問題がある、か。
特に今、大威徳明王の札、つまり白虎の二人と行動を共にしているのだが、昔からの因縁があるのか、今までのような一筋縄ではいかない。
あの二人、歩み寄ったら凄いんだろうけど。
花梨は小さなため息をついた。
と、その時、サラサラというきぬ擦れの音と、とんとん、という軽快な足音が聞こえてきた。
「神子さま、翡翠どのがいらっしゃいました」
「やあ、神子どの」
「…噂をすれば、影…」
花梨はどうぞ、といいながら、紫姫と翡翠を部屋に招きいれた。
今日は花梨の物忌みの日で、その供を翡翠にお願いしていたのだ。
「あとは宜しくお願いしますわね、翡翠どの」
「はいはい」
紫姫はそう言うと、占いがあるから、と部屋を出ていってしまった。
「さて、と。何を噂していたのかな?」
「あら、聞こえてました?ほほほ」
花梨がわざとらしく笑ってみせると、翡翠は盛大なため息をついてみせた。
「昔から耳がいいほうでね」
「まあ、地獄耳でしたの?おそろしやおそろしや」
「…神子どの?」
花梨のわざとらしい話し方に、翡翠は呆れたように尋ねてきた。
「一体、何をそんなに不機嫌でいるのかな?」
「…別に不機嫌ではありませんよ」
「そういう他人行儀な言い回しをしている時は、だいたい不機嫌なんだよ、君は。だが、私にはその理由がさっぱり分からないのだよ」
「じゃあ、翡翠さんのせいじゃないんじゃないでしょうか?そもそも翡翠さんが不機嫌の理由なら、こうして呼び付ける事はなかったと思いますし」
花梨はぷいっと横を向きながら、そう答えた。
だが、その言葉に説得力がないように、花梨は翡翠を見ようともしない。
「…まったく、君は…」
翡翠は呆れたように言った。
「このところ、君の所に来なかったのを、拗ねているのかい?」
「…」
全くもってその通りな事を言われ、花梨はびくっとしてしまった。
だが、何故か翡翠に対しては素直になれなくて。
「それって自意識過剰なんじゃないんですか?」
なんて憎まれ口を叩いてしまうのだ。
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