友雅さん・短編

□全ての想いを口づけに乗せて
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「…ありがとうございます」
あかねは器を受け取り、それを飲んだ。
冷たいという程ではなかったが、やはり喉が渇いていたのか、水が喉を通るのが心地よく、ほっと息をついた。
「それじゃあ、私はこれで失礼するよ。…こんな時間に神子どのの部屋にいるなんて藤姫に知られたら、この屋敷への出入りを禁止されてしまう」
「…あ、あの…」
あかねは部屋を出ようとした友雅に、思わず声をかけてしまった。
「うん?どうしたんだい?」
「あ…ええと…」
また独り、この広い空間にいなくてはならないと思ってしまうと、不安でたまらなくなった。
だから、せめてもう少しいて欲しい…、と思わず言いそうになった。
だが、友雅が何故こんな時間に、ここにいるかなんて、鈍いあかねにも分かる。
だから、ここで引き止めるのも躊躇われる。
…それに、苦手な相手と、これ以上時間を共有する、というのも、何を話していいのか分からなくて困る。
「神子どの?」
考えこんで、話が止まってしまったあかねを見て、友雅が不思議そうに尋ねてきた。
「あ…いえ、何でもないです」
あかねは笑ってごまかした。
「いろいろありがとうございました。…おやすみなさい」
「…」
あかねがカラ元気を出して追い出そうとしているのを見抜いてしまったのか、友雅はあかねをじっと見つめていた。
そして、小さくため息をつくと、あかねの側に近づいてきた。
「あ、あの…」
「君が眠るまで、ここにいよう」
「…え?」
「暗闇に取り残されるようで怖いのだろう?だから…君が安心して眠りにつくまで、君の側にいよう」
あかねは目を丸くした。
やはり友雅には、あかねの不安が見透かされていたようだ。
「で、でも…友雅さん、用事があったんじゃないんですか?」
…きっと今頃、友雅が来るのを待ち侘びている人がいる。
あかねは自分の為に、その人の気持ちを踏みにじる事は出来なかった。
だが、そんなあかねの心配をよそに、友雅はあかねの側に座った。
「…特に急ぐ用事はないし、ね。相手も今頃眠ってしまっただろうし」
「…すいません」
あかねが申し訳なさそうに謝ると、友雅はクスリと笑った。
「いや…、ちょうどよかった。ちょっと…どう断るか考えていた所だったし…」
「え?」
「ああ…いや、こちらの話だよ?…さ、早く寝なさい?」
「…はい」
あかねは友雅に言われるままに、横になった。
だが、やはり頭が覚醒しきっているのか、目をつぶっても、眠りを誘う事が出来ない。
それに、…近くに友雅がいるというだけで、どこかしらが緊張しているのかもしれない。
そう思いながら、あかねはちらりと友雅の座っているほうに視線を向けた。
…月明かりに照らされた友雅の横顔に、あかねは思わずどきっとしてしまう。
自分で言うのもなんだが、八葉のメンバーは美形揃いだし、藤姫や周りの女房も見目好いものばかりで、気が引ける位なのに。
その中でもこの人は、ずば抜けていると思う。
あかねは布団の間からちらりともう一度友雅を見る。
友雅は外を眺めているようで、あかねの視線に気付かない。
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