友雅さん・長編

□記憶の中の貴方
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1.記憶と忘却

それは、あかねにとって生まれて初めての出来事だった。
人を好きになる事、はあった。
告白もした事もある…玉砕したが。
とてもプラトニックだが、男の子とお付き合いもしたことがある。…流石にキスどまりだったが。
ではなにか、というと。

一目惚れ

である。
こちらの世界に来て、八葉なる男性が自分を守るのだ、と言われた時、初めて彼に会った。
藤姫に紹介された時、本当に自分の中に電流が流れたかと思う位、衝撃が走った。
視線が合った時、顔から火が出たと勘違いしてしまう程、熱く赤くなった。
「…君が龍神の神子かい?」
そう尋ねられた時、その蕩けるような美声に、自分の心臓が壊れるのではないか、という位鼓動が早くなってしまった。
……本当にどうしちゃったんだろう、私。
その日から寝ても覚めても彼の事を思い浮かべてしまう。
神子として、大事な役割―京を鬼の手から救いだす―があるのは分かっていたが、それを思わず忘れてしまいそうな位、忘れる事ができない。
こんな事じゃダメだと、頭から離そうとすればする程、更に心に刻みつけられてしまう。
…こんな事、藤姫ちゃんにも相談できないよ。
かといって、誰に相談していいのか分からない。
天真や詩紋に相談できればよかったが…、違う世界の人を好きになったと言えば、そんな不毛な恋は止めておけと、言われるに決まっている。
そんな事、言われなくても分かっている。だけどそれが出来ないから困っているのだ。
…本当にどうしよう。
あかねをここまで悩ませている相手の名は、橘友雅。
八葉で地の白虎であり、左近少将で…数々の女性と浮名を流す、当代きっての色男、であった。
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