友雅さん・長編

□想いの行方
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エピローグ

「友之くん、今日はご機嫌ね。どうしたの?」
朝からずっとニコニコしている友之を不思議に思い、保育士が尋ねる。
すると、友之は更に笑顔になって答えた。
「今日ね、パパが迎えに来てくれるんだよ?」
パパ?
保育士は思わずきょとんとしてしまった。
確かこの子のウチは母子家庭のはずで。更に言えば、父親の分からない子供だったはずだ。
十代で子供を産んで、ひとりで育てていることを、言葉や態度には出さないが、保育士仲間では無謀だと話していたのだった。
そんな保育士の感情は、あかねや友之への態度を軽くぞんざいにしていた。そして、人の心に敏感な子供は、そんな大人の何気ない軽蔑を受け止めてしまい、友之はあまり感情を保育園では出さなくなっていた。
だが、今日は『嬉しい、楽しい』という感情を露わにし、満面の笑みをたたえていたのだ。
「なぁに?ママが結婚したの?」
「うんっ、パパがね、一緒にこっちに来てくれたから、ママと結婚できたんだって」
子供の言う事はよく分からないが、母親が誰かと籍をいれた事は分かった。
まあ、十代で子供を産むような、とんでもない女の子の結婚相手なんて、大した事ない。
そう小馬鹿にしながらも、どんな相手なのかは少し興味があったのだった。

そして、夕方。
「すいません」
保育士に一人の男性が声をかけてきた。
その美声にぞくりとして振り返ると、そこにはうねる長い髪を束ねた美丈夫が立っていた。
「は、はい。何でしょうか?」
「こちらに息子がいると聞きまして、迎えに来たのですが」
その男はにっこりと微笑みながら言った。
しかし、こんな美形の父兄などいただろうか?
「あの、すいませんが…」
保育士がいぶかしんで尋ねようとすると。
「パパっ」
友之が園内から走ってきたのだ。
「とも、約束通り迎えに来たよ?」
男は友之に微笑みかける。
「あ、あの?」
戸惑う保育士に、男は笑って答えた。
「失礼。私はこの子の父親で、橘友雅といいます。今日は妻の都合がつかなくて、私が息子を迎えに来ました」
「先生、この人が僕のパパなんだよ?」
得意げに友之が言った。
確かに二人が並ぶと、よく似ていて、まごうがなく親子だと分かる。
だが、子供を預かる身としては、いかな父親とはいえ、面識のない人物に子供を渡す事はできない。
そう思っていると、道路の向こうから、あかねが走ってくるのが見えた。
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