神子さまたちと野獣たち

□始まりの日
5ページ/12ページ

「あ、そ、それでね。誕生日の話なんだけど…その日、翡翠さんのスケジュールってどうなっているの?」
花梨は慌ててかつさりげなく手を離しながら尋ねた。
結城に話を聞きたかったの進路相談だけでない。
今年の翡翠の誕生日のスケジュールを押さえておきたかったのだ。
「社長は…確かその日は朝から仕事で、終わってからは取引先からの招待で誕生日パーティーがありますね」
結城は眉をひそめながら答えた。
どうもその会社は翡翠に媚びをうって、取り入ろうとしているらしい。
あわよくば翡翠とうまく繋がりを持ち…なんと算段が見え見えだそうだ。
しかも、会社の事を考えると付き合いを今切るのは痛手なので、さしもの翡翠も困っているようだ。
花梨はその話を聞いて、うーん、と唸ってしまった。
翡翠が困っているなら、なんとかしてあげたいけれど、今の自分では何も出来ない。
それが何とももどかしい。
と、その時、ぽん、と結城が手を叩いた。
「そうですわ、私にいい案が浮かびましたわ」
極上の笑みを浮かべながら、結城はそう言った。
「え?な、何?」
「それは内緒ですわ、当日まで」
こう言われてしまえば、それ以上何が?とは問う事は出来ない。
それは結城が有能な秘書である証だったりするのだが、花梨は少し納得いかなかった。
「私にも?」
「ええ。…まあ、私からいつもお世話になっている社長へのプレゼントですから」
…心にもないことをさらりと言ってのけながら、結城は更に笑みを深めた。
これ以上話しても時間の無駄と感じた花梨は、その話題を切る事にしたのだった。
そして帰る支度を始めた。
「そういえば、何故私に相談を持ってきてくださったんですか?」
結城は翡翠の有能な秘書ではあるが、天敵でもあるのだ。
出来れば可愛い花梨を近づけたくない位に。
花梨だってそれを知っているはずで、だからこそ不思議だった。
「え?だって私、結城さんみたいに美人で有能な人って憧れなんですよ。いつか結城さんみたいになりたいなって。だからこれからも色々教えて下さいね」
花梨はあっさりと答えて部屋を出ていったのだった。
…天然タラシの神子さまの攻撃に遭い、萌え死んでいる結城を残して。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ