那岐・短編

□馬子にも…
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禍日神との戦いに死闘の末勝利した千尋は、中つ国と、そして自分の命よりも大切な恋人を手に入れた。
その彼と今、手を繋ぎ、天鳥船に向かっていた。
「…あのー、那岐?」
「何だよ?」
「手…いつまで握っているの?」
さっきから仲間の好奇心いっぱいの視線にいたたまれなくなってきた千尋は思い切って尋ねた。
そう、戦いが済んでからずっと那岐の手は必ず千尋のどこかを触っていた。
抱きしめたり、頬に寄せたり。
ずっと離れていたものが、漸く戻ってきた気分で、嬉しいのだが、やはりちょっと照れ臭い。
だが、那岐は握っていた手の力を少し強くしながら答えた。
「…手を離したら、千尋は離れちゃうだろ?」
「…そんな事…」
「あるだろ?そんなに畏いほうじゃないのに、すぐに無謀な事を仕出すし」
那岐がさらっと言った。
「…自分だって…」
千尋もきゅっと那岐の手を握り返しながら言った。
「自分だってそうじゃない。すぐに無茶をしちゃうの。…いくら私の為だからって…離れていなかいで?無茶な事、しないで?」
「千尋…」
ほんの少し涙を溜めた瞳で訴えられるようにそう言われ、那岐はうっと唸ってしまった。
そんな二人を…他の仲間たちは砂を吐きながら見ていた。
「…絶対俺たちがいる事を忘れているよな」
「ははは」
「まあ、いいではないですか。我が君もしばらくぶりにあんな穏やかな表情をなさっているのです」
柊はくすりと笑った。
「でも、姫のあの顔を引き出したのが…那岐だというのは少し口惜しいですが」
「…柊、貴様何を企んでいる?」
忍人は柊をじとりと睨んだ。
昔から柊がこんな調子な時は、とんでもない事を考えている時なのだ。
「…いえ、たいしたものではありませんよ」
柊はそれだけ言うと、またくすりと笑った。
これ以上何かを尋ねると、自分達まで巻き込まれてしまうような気がするので、皆話を止めてしまったのだった。
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