神子さまたちと野獣たち

□似たもの同士
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とある書店。
あかねはお目当ての本を見つけた。
少し高い位置にあるそれを、あかねは背伸びをして取ろうとするが、あと少しの所で取れない。
もう一回チャレンジとばかりに、再度手を伸ばした時だった。
「この本が欲しいのかい?」
背中がぞくりとするような美声が聞こえ、あかねの欲しかった本が棚から抜き取られる。
「ともま…」
一瞬『彼』かと思った。
それ位、その人は『彼』に似ていた。
背格好も容姿も、そしてその声さえも。
ただ一つ違うのは、『彼』の髪が波打つようなのが、この人は羨ましい程のストレートなのだ。
「お嬢さん?」
自分をまじまじと見るあかねを不振に思って、その人が声をかける。
「あ。あの、ええと、ありがとうございますっ」
あかねは恥ずかしくなって、その本を受け取ると、逃げるようにレジに向かった。


「と、いう事があったのよ」
あかねは一部始終を『彼』であるところの、橘友雅に話した。
「はははっ」
「もう、笑い事じゃないですよっ」
あかねは友雅の態度にむっとしながら言った。
「ごめんごめん。しかし、そんなにその男は私に似ていたのかい?」
「ええ、そりゃもう。そうやってちょっと人を馬鹿にしたような態度をとる所までっ」
本当はそんなところがあるのかどうか分からないが、友雅のその様子が気に入らなくて、あかねは憮然と答えた。
「ふぅん?」
ぷいっとむくれたあかねは、友雅の空気が変わった事に気づかない。
友雅は、はっきり言って面白くなかった。
いくら自分に似ていたからと言っても、それは『自分』ではないのだ。
だから、自分以外の男に気をとられたあかねにヤキモチを妬く。
あかねには理不尽な事だろうが、元今業平のプレイボーイのヤキモチは尋常ではなくて。
「あかね?」
これはお仕置きが必要だと思わないかい?
「はいっ?って、と、とも、友雅さん?」
やっと自分にすずいっと近づいてきた友雅に気付いたが、既に遅し。
「浮気はいけないよ?」
「って、どこをどうとったら浮気になるんですかっ!浮気ってのは、むかしのともま…」
ちうっ。
必死に言い訳(?)をするあかねを口づけで黙らせると。
「だって、私というものがいながら、私以外の男にときめいたのだろう?それを浮気と言わないのかい?」
「いや、だから」
話を聞けっ!
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