いただきもの

□ネスさまより
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ことり、と、
何も言われずに置かれたそれは、
質素な、どこか懐かしさのある小さなロールケーキ。

あまり甘いものが好きではない彼女が、無表情でそれを僕がいるカウンターテーブルにそっと置いた。



幼い頃からこの人の考えている事は理解できなかったが、今もたいしてその距離は縮まっては居ないらしい。




「…これは?」




コップを拭きながら彼女は視線だけ僕に向け、すぐに戻す。
切れ長の綺麗な眼が、またコップを儚げに見つめた。




「何?」


「大きくなりましたね、と」




差して変わらない年齢のくせに、と、
言わずに僕は自分で頼んでいた紅茶を啜る。




「そう?」


「えぇ、見違えました」


「惚れるくらい?」


「えぇ」




視線は相変わらず合わない。
コップを拭き終わり、彼女はまた違うコップを取り上げた。



ホント、何考えてるのか解らない。





「君は変わらないね」


「えぇ」


「…」


「マルス様」





珍しく僕の目をみる彼女に、どきりと心臓が高鳴った。
こう目を合わせるのは、長い年月の中で数回しかないけれど、
いつ見ても、彼女は美人だと思う。




「お誕生日、おめでとうございます」


「え、…?」


「私が作ったケーキです
どうぞ」




誕生日?
そんなの、僕でさえ忘れていたのに。


だいたいこの歳になって誕生日を祝う様な事など、しない。
なのに、わざわざケーキまで、




「あ、ありがとう…」


「いえ
いつもご贔屓にしていただいてるので…」


「…君は真面目だなぁ」


「マルス様程では」




今だに彼女の考えは理解出来ないし、何考えているのか解読するだけで一日を費やしそうだけれど、

案外、僕は愛されているのかもしれない。





そう思いながら、どこか懐かしいそのケーキを一口含む。


ほろ甘い、僕好みの味だ。




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ネスさまのサイトよりいただきました、マルス誕生日祝いの小説です

マルスの優しげな雰囲気と、あとヒロインの淡泊さが好きです……。家庭的かつ丁寧語使用のヒロインにきゅん(…)
マルスとヒロインの距離感も良いですよねえ。遠い感じはするけれど、最後の方の一文「案外、僕は愛されているのかもしれない。」でぐっと来ますっ!


ネスさま、ありがとうございました!
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