☆小説『短編』☆
□願い
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『今日中に絶対に食べてほしい物があるから、今日の仕事は、終了!!!』
そう言われると同時に有無を言わさず、担ぎ上げられ食堂に連れて来られたのは数分前。
いくら処理をしても片付く事のない書類の山があるというのに、目の前の男は呑気に鼻歌を歌いながら食事の準備をしている。
これで俺の嫌いな物や不味い物だったら、殴り飛ばしてあの書類の山をあいつに押し付けてやるっ!!!
「はい、お待ちどう様!!」
「何だ?これは・・・?」
心に誓いを立てながら待っていると、目の前に出されたのは一本の黒い物体。
「イザーク、今日がどういう日か、話してた事あっただろ?」
「今日?今日は確か・・・あぁ!『節分』の事か?」
民俗学の本を読んでいた時に珍しくディアッカが興味を示してきたから話してやった事をふと思い出す。
だが、それは随分も前の話。
あれから今日まで数回この日を繰り返してきたが、ディアッカに促されたのは今回が初めてだ。
何かあるんじゃないかと疑っても仕方ないだろう?
「あ、何?その目?何か疑ってんの?」
「貴様の事だ。何もなくこんな物、差し出すわけなかろう?」
「何もないって!それよりイザーク、『節分』って何するんだっけ?」
「・・・豆を撒く・・・と聞いているが?」
「そうそう!そうなんだけどね、それ以外にも風習があるんだって。」
「ほう・・・興味深いな。何だそれは?」
「それが、コレ!」
そう言ってディアッカが指差したのは先程、出された黒い物体。
「これは『恵方巻き』って言って、これを節分の夜にその年の『恵方』ってのに向かって目を閉じて一言も喋らずに、願い事を思い浮かべながら丸かじりするんだって。」
「丸かじり・・・?」
丸かじりと言われ改めて黒い物体・・・もとい『恵方巻き』とやらを見ると、長さは20センチ程あり、太さは大口を開ける程だ。
これを一気にだと・・・?
。