小説倉庫
□絶望遊戯2
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俺は、あまり家に居るのが好きじゃない。
昼は学校行って、それから後は遅くまで遊んで時間を潰したり友達の家に泊まったりするけど、それがしょっちゅうだと母さんが心配するから出来るだけ我慢している。
家が嫌いな理由のひとつは、
兄達とうまく言ってないから。
次兄の哲は俺の事虐めてくるし、長兄の智は…正直よくわからない。
初めて会ってから会話らしい会話をしたことがないのだ。
あっちは忙しい身だから、俺の事なんてどうでもいいのだろう。
…まぁ良くは思っていないだろうな。多分軽蔑してる。
もう智兄の中の俺の株を上げるのは無理だって、諦めてる。
俺みたいな出来損ないが弟だってこと他人に知られたくないだろうなぁ。
本当に申し訳ない。
そして、今、家にいたくないもうひとつの理由のために俺は雨に打たれながら広い庭の隅に座り込んでいる。
家の敷地内でも、ここなら誰もこないから…
数時間前、俺は母の部屋を訪ねた。
普段、入れ違いが多く一日に一度も顔を合わせない日もある。
最近そんな日が続いていたので、そろそろ母の顔が見たくなったのだ。
マザコンってのは自分がよく理解してる。
何も話すことはない。
ただ顔を見にきただけだ。
だが、訪れた部屋に母はいなかった。
メイドに尋ねると、父さんの部屋にいるとのことだった。
それを聞いて俺は心の中で幼児のように憤った。
俺が会いにいく時は必ず一人でいてほしい。
俺の為だけに存在してほしい。
そんな幼稚な独占欲がわく自分にイライラして、
半ば無意識に家を出た。
雨が降っていたが構わず、あてなく歩き回り、庭の倉庫の裏にたどり着いた。
そして、今に至る。だ。
知らず知らずのうちに溜息ばかりが出る。
俺はなんで大人になれないんだろう。
母さんが俺の知らない所で幸せになるたび、俺はどんどん不幸せになっていくから、母さんの幸せを願えない。
2人きりで狭いアパートで暮らしていたあの頃に戻りたいと毎日思う。
俺の願いが叶ったら、今度は母さんが幸せを手放すことになる。
人間って難しいな。
なんで同じ感情を共有出来ないんだろう。
面倒くさい。
もう嫌だ。
こんな事で凹む自分が嫌い。
思い通りにならない母さんも嫌い。
これは嘘。
雨が強くなってきた。
さっにここに来るまでに濡れたから身体が冷えて寒いけど、家の中には入りたくない。
このままここで寝ていいかなぁ。
風邪ひくかも。
……どうでもいいや。
寝ちゃお。
体育座りして膝に顔を埋めて目を閉じると、意外にもすぐに眠気がやってきた。
このまま目開けたく無いな。
駄目かな………、
しばらくして、誰かに起こされた気がしてハッと目を覚ました。
何時間、いや、何分寝たのだろう。
時間の感覚がなかった。
ふと、顔を上げて俺は己の目を疑った。
「智兄……?」
「………」
相変わらず無表情だし、無言。
ただし、いつもと違い目が合う時間が長い…気がする。
そりゃあそうか、こんなとこでうずくまって寝てる奴を好奇の目で見てもおかしくないよな。
馬鹿だなーって思っているに違いない。
俺はいたたまれない気持ちになって反射的に目を逸らしてしまった。
「…何をしている」
「…ですよね、ははは」
全うな質問だ。
しかし、智兄は何故ここに来たんだろう。
智兄の部屋からここは丸見えだから、もしかして不審者だと思われた?
これは紛らわしいことした俺が悪いわ。
「ごめん…」
「何故謝る?家に入らんのか?」
「う、…なんか、外の風に当たってたくてさ」
こんな所でうずくまってガタガタ震えてる奴の言うことじゃなかったかな。
「風邪をひくだろう。行くぞ」
へ、
もしかして、
心配してくれてるのかな。
嘘みたい、あの智兄が。
哲兄だったらもっとあり得ないけど。
戸惑いで、しばしフリーズしたままでいると、手を引っ張られて連行される。
いい。すごく。本物の兄弟みたいだ。
「……」
「……」
後姿の智兄は背が高くて背中もは広い。
俺はクラスで一番でかいけど、やっぱり兄貴には敵わない。
導かれるままに家の中に入ると、通りがけに哲兄に会った。
その時、智兄が繋いでいた手を離したので、今まで手を繋ぎっぱだったことに気づき1人で勝手に照れた。
自分の部屋に帰ろうとすると、智兄にコーヒーがあるから、と一回も入ったことない智兄の部屋に招待された。
どういう風の吹き回しだろう。
今日の智兄は超絶機嫌がいいに違いない。
その頃にはもう髪も服も乾いていたから、ソファに座ってコーヒーを飲んだ。
智兄もテーブルを挟んで向かいのソファに腰掛けてコーヒーを飲んでいる。
こんな光景が拝めるとは夢にもおもっていなかった。
「ねで、智兄何か良いことでもあったの?」
若干テンションが上がり、勇気を出して話を切り出してみた。
「何故そう思う」
!返事、してくれた
「俺に構うなんて珍しいじゃん。」
「良いことがないとお前に構ってはいけないのか」
「そういうわけじゃないけど…俺智兄に嫌われてるでしょ、だから、珍しいなって…」
あ、余計なこと言った。
「嫌ってない」
「へ…?」
あれ?
「お前は勘違いをしている」
「え?どういうこと?」
「こちらが聞きたい」
「 智兄……」
あり得ない。
俺は今まで智兄のこと誤解してたみたいだ。
今まで、智兄には哲兄とのセックスを何回も見られたし、恥ずかしいこともいっぱい知られた。
だから俺は、てっきり呆れられてるのだと思って。
でも、たしかに避けられてる感じはあったのにな。
俺の気のせいだったのかな。
「嬉しい」
「そうか」
「……」
「……」
変な沈黙が流れる。
嫌われてないとわかって安心したけど、智兄はやっぱりどこか冷たい。
嫌いじゃないというだけで、好きでもない。
そんな感じだ。
「俺、そろそろ部屋に帰るね。いろいろありがと」
「……」
智兄からの返事はないけど、俺は少し高揚した気分で部屋に帰った。
心配事がひとつ減ったのが嬉しかった。