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□飼育2
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木下信雄は数日前東条家に召し抱えられた使用人だ。



その仕事は少し特殊で、内容は脚の悪い次男の身の回りの世話をするというものだ。



もともと信雄は清掃会社に所属しており、
オフィスの清掃を担当としていた。
それは、信雄が人付き合いが極端に苦手なことと関係があった。

人と接する必要がなく、ただ与えられた仕事をこなし定時に帰れるこの仕事を自分にとっての天職だとおもって没頭する信雄は、他人からみると、とても仕事熱心で誠実な立派な人間と見なされていた。

また、信雄の年齢が職柄に似合わず割と若いことも衆人の好奇の的となった。

その好評ぶりが上司に知れ、信雄は昇進することになった。

最初、清掃会社の管理職を言い渡されたが断固として辞退したために、かわりに給料の高い特殊な邸宅の使用人の枠に入ったのである。

そのグループに属していれば、高値な仕事ばかりが斡旋される。
もといたオフィスの清掃や、一般のハウスキーパーの枠とは比べ物にならないほど金が入ってくるのだ。

秘密の守秘と、任務の徹底が絶対条件で、場所によれば大した仕事をしなくても勝手に大金が振り込まれる清掃会社の
従業員の誰もが憧れる夢のポストである。




そこで信雄が初めてもらった仕事は東条財閥の次男専属の使用人だった。

人嫌いの信雄はこのことに若干の絶望を感じていた。
しかし、管理職を蹴ったことで、もう我儘を言うのは許されず、渋々従事することになった。

しかし実際に仕事をしてみると、大変な事などなかった。

主人の東条光は子供だったし、性格も大人しく少々内向的で、信雄が気兼ねなく接することのできる数少ない人種であったので、最初の不安は殆ど無くなったと言ってよかった。

それどころか、自分以上に人慣れしていない様子に同情を覚え、数日経つ頃には自分から話かけてみよう、という勇気さえ持てた。

自分が精神的に優位に立てた気分は始めてだった。

信雄はこの仕事を徐々に気に入りはじめた。






「信雄さん、ちょっときてー」

光は最初こそ人見知りしてかたくなっていたが、打ち解けるのも早かった。
子供の柔軟性なのか。
ともかく、気難しい猫を手懐けたようで、内心嬉しかった。

最初は用意された部屋で呼び出しのベルが鳴るのを恐れていたが、今ではベルを鳴らす必要がない程殆どの時間を光の部屋で過ごしている。

一緒にいても気を遣わなくて済むし、むしろ、光がどんどん自分に心を開いていく様が愉快でその過程を側にいて見ていたいと思ったのだ。

「何ですか、光様。」

ソファの裏で地べたに座り背もたれを背に本を読んでいるはずの光の元へ向かう。

最近はいつもそこで少し話をする。

家族の話とか、星座占いの話とか、いろいろ。
沈黙も多かったが、それが苦になることはない。

そうしているうちに、夜の休憩時間になるので一旦自分の部屋に帰る。

ここからは自分の時間だ。

呼び出されたら夜にでも出動しなければならないが、今まで9時以降にベルを鳴らされたことは一度もない。



今日も余裕でくつろいでいると、ベルが鳴った。
時計を見ると1時5分。

こんな真夜中にどうしたのだろう。

面倒と思う前に心配だと思った。

これは信雄の人間的な成長だ。

早速光の部屋に行こうとすると、廊下の途中で光の兄、淳にあった。

酒に酔っている。赤ら顔で、足取りもふらふらしている。

「淳様、だいじょう…」

「超頭いてぇ。すまないが、光を風呂に入れて部屋も片付けておいてくれ。」

そういって淳は信雄に数枚のお札を握らせると階段を登り何処かへ行ってしまった。

不思議に思いながら部屋に入ると、光は布団の上で寝ていた。

しかし、いつもと様子が違う。
近づいて、何となくかけられていた毛布を捲ると信雄は目を疑った。


……簡潔に状況を説明すると、光は強姦されていた。


太ももや手首には鬱血のあとがくっきり残っており、首筋には歯型。
身体中に精液が付着しており、
所々に血が混じっている。

あまりにも痛々しい光景に、信雄は口を覆って絶句した。

寝ているとばかり思っていた光の腕がピクリと動いた。
シャツの裾を引っ張って精液の滴る後ろの秘部を隠そうとしているようだ。

髪の毛で隠れて表情は見えない。

信雄は混乱していたが、己の仕事を忘れるほど愚かではなかった。

「光様、起きれますか?」

「………ん。」

光は起き上がろうとしたが、辛そうにしているのを見兼ねて信雄が横抱きにして風呂場へ連れて行った。

「………」

「………」

無理もないが、光は一度も目を合わさない。

ふと、下を見ると光には年齢的に生え揃っているはずの陰毛が無かった。
介護する際に陰毛はない方が楽だというが、理由を確認する勇気はなかった。

シャワーの温度を調節して、身体を洗おうとすると、ビクッと身体を揺らした。

「いい、自分でやるから、お願い、見ないで…」

酷く声が震えている。

信雄は了解して後ろを向いた。

シャワーの音の合間に、ぐちゅぐちゅ音がする。
中に入った精液を出しているのだろう。

「う、ぅう…」

光は泣いていた。

信雄は胸が痛んだ。
初めての経験だった。

その場の空気に耐えきれなくなって、殆ど無意識に光を抱きしめていた。
とにかく泣き止ませたかった。
口下手な信雄にはこの方法しか術をしらなかった。

「……何で…信雄さん?濡れちゃうよ、離して」

「…すみません」

それでも信雄は光を抱きしめたまま離さなかった。

「……お兄ちゃんは、ほんとはとっても優しいんだよ、今日はお酒を呑んでたから、それで…」

光は信雄に説明しているようで、自分に言い聞かせていた。
信雄は黙って聞いていたが、光は泣き崩れてしまった。

その間ずっと、信雄は心臓のあたりがギュウゥと締め付けられる感覚を感じていた。




しばらくして、信雄は光の身体を綺麗に洗った。
今度は抵抗しなかった。
ボーッとした目で自分の中から精液が出ていくのを眺めていた。

水気を拭いて着替えて、髪を乾かしてすぐに新しい布団に寝かせた。
疲れていたようで、数分も経たないうちに眠ってしまった。

光の寝顔を見ながら信雄は、複雑な心境だった。

明日からどう接したらいいんだろう。

取り敢えず部屋の電気を消して、自分の部屋に戻る事にし
た。
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