短編ブック

□背中からみる星
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わたし達はみんな、地球平面説のなかにいて、そこには海しかないから、一人ポッチで浮いてるんですと。
そう、で、あおーい、あおーい、空、星星を眺めてるんです。
カラダの上面半分、おっぱいや顏は冷たい空気に触れて、フカフカと毛穴を閉じてます。
カラダの下面半分は、水素みたいな温度の、水みたいな海水に浸かってます。
それは、空よりももっとダークなブルーで、もはやブルーなのかブラックなのかもわからないのであります。
でも、闇みたいに、透明みたいに、溶け込むみたいに、気持ちいいのです。

仰向けにぼんやり浮かんでるンだけども、夜空がミえて、星がミえるのです、でも、ここだけの話、実は、実はね、背中からミえる海底がすごいらしいのです。
そこにも、星があるらしい。
キラキラとは輝かない。
夜空のポックリとしたマンナンの月じゃない。
金のスパンコールを散りばめたみたいな煌びやかさじゃないのよね、モット。モット、静かで、夜に照らした動物の目のような、小さな点みたいな光。
それが、点描みたいに、ぽつ……、ぽつ……って、あるのであります。
それを、背中からミるのであります。
ミる、と言っても。
視覚では見えず、背中で感じるしかないのだけども……。




ね、黒子くん、私こんな詩をみつけたの。ね。どーよ。

後ろの席の黒子くんの机に身を乗り出して詩が書かれたノートの切れ端を見せつけると、黒子くんは黙読してしばらくして、驚いた様子で「誰の詩ですか?」と聞いてきた。


「作者、私の妹。妹の机の中から出てきた。」
「こら。人のプライベートをかってに覗いちゃダメですよ。」


黒子くんが呆れ顔で私にお説教しだしたので(何か、親しき仲にも礼儀ありだとかことわざまで引用してきた)まあまあと両手を広げ、宥めつけた。

黒子くんとは中学時代から同じ学校で、ついでにずっと同じクラスだった。
黒子くんって地味だから、さ。
あんまり話したことなかったんだけど、仲のいい友達はみんな他の高校に行っちゃったから。
私も、高校に入学したての頃はなんか、中学時代の先生とか、変な学校制度とか、あんなやついたよね、こんなだったよねって、語れる人が欲しくなって、寂しくなって、寂しくって、ちょうど、黒子くんとまたおんなじ高校おんなじクラスだったから話しかけるようになったの。
しかも後ろの席とか。キセキ〜。


「で、どうよ。」
「……。」


身を乗り上げて迫る私を他所に、黒子くんは紙切れをしげしげと眺めた。
黒子くんの反応は。何か、悪い感じでは、ないかも。

無表情黒子くん。オトナシ黒子くん。童貞黒子くん(たぶん)。
でも、意外と頑固オヤジみたいなところもあるって、話すようになって気付いた。
私が付き合ってきたどの友達とも違うカンジの人間。
だけど、どの友達よりも芯が強くて、一歩間違えば「人を幸せにできる仕事がしたい」とか恥ずかしいこと本気で言えちゃいそうな人。

そんな黒子くんは、私がバカなことしたら本気で怒ってくれるし、生理前でイライラモヤモヤしてたら普段動かない眉を垂らして本気で心配そうにしてくれるし、誰にでもそう、優しい。やさしい。だから、大好き。

中学を卒業してわかったのは、案外私は寂しがり屋だってことだけだった。


「私さ、中学のとき、一回だけ黒子くん達のバスケの試合見たことある。」
「木口さんって唐突ですよね。」


衝撃的だった。全国大会の決勝戦。
強いチーム同士の試合だし、おもしろいゲームが見られるだろう。バスケ部ってイケメンだらけって噂だから、ついでに見てこよう。
そんな気持ちだった。

そんな軽い気持ちの私だったから、彼らの試合に卒倒しそうなくらい度肝を抜かれたんだ。
目から火が出るような、センセーショナルな、天地がひっくり返るような。そんなカンジ。『キセキの世代』ってカンジ。
でも、ね。一人だけ変な奴がいるなって気付いた瞬間からは、もう、駄目だった。なんか駄目だった。
目が熱くなって、そいつ見つけた瞬間思わず震える唇からため息ついたの。温かい息を出したの。
アメリカ映画のショッキングな感じじゃなくて、そうじゃなくて、心胆寒からしめるような、あっ、って小さく声あげちゃうような、かんじ。
あの時はたしか背中から冷や汗流れたわ。はは……。

試合中ずっとその黒子くんばっか一生懸命さがして、目で追ってた。
綺麗だなって思って。


「まあそれもあって、黒子くんに話しかけるようになったんだよねー。」
「木口さんって恥ずかしいこと平気で言いますよね。」


黒子くんは目をどこに置いていいかわからないように困った顔をして照れていた。
私みたいな人間の言葉が、黒子くんみたいなすごい人の感情に訴えかけてるってことが、何だか嬉しい事実。
これだから黒子くんてやめらんない。


「それで、ね。この詩の、背中から見るほうの星。それが、黒子くんっぽいかなーって。思ったわけです。」


どうかな。
そう言うと黒子くんはまた、気恥ずかしそうに、でもちょっと嬉しそうに口元を緩めた。


「ありがとうございます。」
「いや、ありがとうじゃなくて。どうかな。」
「どうと言われても。」


倦ねて首を傾ぐ黒子くんに、私は共感してもらうのを諦めた。
その代わり、妹の詩の講評を頂いた。


表現はいいので、それを後押しできるように、折角の綺麗な情景を読んだ人がイメージしやすいようにもっと情景描写を入れ込んだほうが良くなると思います。


何かすまん、妹よ。



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