凩の吹く刻
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目の前の大通りを見て、旋風はくすりと笑った。
男が出掛ければ、必ず通る道だ。
この通りの信号は変わりやすくて長い。
標的の乗った車はまず間違いなく足止めされるだろう。
ちらりと、もう一度時間を確認する。
7時15分。
路地を一つ挟んだ向こうの劇場で、ちょうど今日の公演が終わったところだ。
数分と経たず人が溢れてくるだろう。
「頃合いだな」
呟いて、旋風は傍らに置いていた武器を取る。
カチャリと小さな金属音。
もしもこの時、誰かが旋風を見ていたとしても、彼が何を手にしたか解った者はいないだろう。
それくらい、それは闇に溶け込んでいた。
長い、黒塗りの日本刀。
時折細く月明かりを反射させるそれを撫で、旋風は立ち上がった。
黒い着物と黒の刀。
闇色の彼に気付く者は誰もいない。
赤信号で記憶していた高級車が止まるのを見て、旋風は一歩踏み出した。