凩の吹く刻
□00 終焉プロローグ
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死を受け入れていた。
彼女は死を受け入れていた。
しかし、それは覚悟が出来ている、といった類のものではなかった。
ただ、彼女は『死』について考えるにはあまりに幼かった。
自分が悪かった。全て自分が悪いのだと。
その思いに囚われ、それ以外に目を向けることなど不可能だった。
冷たい石畳の床に座り込んで、彼女はぼんやりと訪れるだろう『死』を待っていた。
壁にこびりついた血のシミが、彼女を嘲笑う者の顔のように歪んでいた。
どれくらい経ってからだろうか。
重い音をたて、扉が開いた。
カツン、コツンという硬い足音を聞きながら、終わりなのだなと彼女は思った。
重たい頭を上げると、自分を見下ろす瞳と目が合う。
それが彼だと気付いて、彼女は薄く笑った。
最期が彼でよかったと、思ったのだ。
そうだと、思ったのに。
「前者を選ぶならそのまま、後者ならこの手を取れ」
突き付けられたのは、優しい声色と残酷な言葉で彩られた選択肢。
その末に、差し延べられた手を、彼女が掴んでしまったのは、
「良いんだな? 流渦」
やはり、彼女が幼かったからだろうか。
「……はい。旋風兄上」
終わりはまだ来ない。
今から約十年前。これが、二人の始まりだった。