Dream
□愛を知った日
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愛なんざ、所詮は言葉でしかない。
『阿近さんは、人を愛した事がないんだね』
寂しそうに微笑む名前に、罪悪感を感じる。
事情後の匂いが漂う室内には何の音も聞こえない。
ただ、自分が生きているという鼓動だけが鼓膜に響く。
『私の事も、愛してないんでしょう?』
「……」
やっぱり、と言葉を溢してはだけた服を簡単に整える名前の頬から涙が滴っているように見えたのは、俺の見間違いかもしれない。
振り返った彼女の顔は、驚く程に綺麗だったから。
『…私ね、阿近さんが好きだった』
「名前…」
『本当は阿近さんが私を見てない事くらいわかってたの』
ずっと好きだったんだから、それくらいわかるよ?
にこりと笑って俺の頬へと指を滑らせる。
綺麗で、何度も俺を追い詰めた指。
(あったけぇな…)
誰かの手が、こんなにも暖かいものだと初めて知った。
同時に自分がどれ程愚かだったとも。
『ばいばい』
目の前の彼女はそう泣きそうに顔を歪めて、俺に口づけた。
『…愛してたよ』
最後に聞こえた言葉は、何故こんなにも俺を惑わせる。
咄嗟に伸ばそうとした腕は、無情にも空を切って、冷たくなったソファへと落ちた。
「……ああ、そうか」
…別れを告げられるってのはこんなにも…辛ェモンだったんだな。
どうして腕を伸ばそうとしたのか、どうしてあの言葉に心が揺れたのか…わかった気がする。
「…っ、遅ェよ」
大切なものに、今さら気づくなんてよ。
「…俺も、愛してた」
嘲笑うかのように笑む俺の頬には、生ぬるい何かが滴っていた。
俺は一体、何を掴む事が出来たのか。
阿近さんで切ないの初めて書いた…!ふおお
2011/12/01