月よ、星よと 眺むモノ 原作

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朝いつもの時間に目を覚ます。
ぼーっと周りを見ると金丸もクリスさんも準備が整っているようだ。


「ふぁ…」
「随分な欠伸だな。」
「、すんません。」
「いや…髪ヒドイ事になってるぞ。」


そう言ってクリスさんが髪を撫でて、寝癖を直しくれる。
その手つきはとても優しくて、覚まそうとした瞼がまた落ちてくる。


昨日の夜、あの後さっさとずらかるつもりが結局、降谷が来て一也とのキャッチに付き合っちまった。
俺は何もしてねぇが、なんだかすっげぇ疲れた…


「あの、」
「わりぃな、金丸先行っててくれ。」
「うす、お先っす。クリス先輩も。」
「あぁ」


こちらを伺っていた金丸を先に送り出す。

同学年に対してはきつめの事を言う金丸も、意外というか、先輩、目の上に対する態度はしっかりしたもんだ。
まぁ俺とか一也が少しあれなだけかも知んねぇが…


「どっかの誰かさんと違って金丸は礼儀正しいな?」
「………」
「っふ…そうふて腐れるな。ほら着替えて準備しろ。」
「うっす。」


最後に軽く頭を撫でて立ち上がるクリスさん。
その姿をぼーっと見つめるといつもと違う事に気が付く。


「クリスさん、その格好…」
「あぁ、今日から投手の面倒を見る事になってな。」
「そうっすか…」


クリスさんがグラウンドへ来る。


「へへへ、」
「なんでお前がそんな嬉しそうにするんだ。」
「いや、普通に嬉しいっすよ。」


そうだ、嬉しいに決まってる。
他の連中がクリスさんをどう思ってるかなんて知んねぇ。
でも俺にとってクリスさんは野球について教えてくれた人だ。


「きっと一也も、嬉しいっすよ。他の3年生、哲さん達も…」
「だと、いいんだがな。…大輝もいい加減布団から出て準備しろよ。」


そう控えめに笑うと今度こそクリスさんは部屋を出て行った。
その背を見送って練習着に着替える。

来ていたシャツを脱いでアンダーの袖に腕を通しながら、自然と口角があがっていく。
さっき目を覚ました時よりテンションが少しあがっているのが自分でもわかる。


「っし、行くか。」


グラウンドへ向かうべく寮を出て歩き出す。
グラウンドへ集まればいつものように監督から一言。
それを聞いてから各自練習にわかれる。

その途中で一也と目があう。

特段意識をしてたわけじゃねーが…
だからってあからさまに逸らすのもな。

何を言えばいいのか迷いつつ口を開こうとする。
が、やっぱり言葉がでねぇ。
そんな俺の様子を見た一也が苦笑いしながら目をそらした。


「っ、おい…」
「青峰ポジションつけ!!」
「、うっす!!」


そのまま背を向けてポジションに着く一也に、手を伸ばすが遮られる。


どうして、なんて言えるわけねぇか…


「ノックはじめんぞー!!」
「っしこーい!!」


気持ちが乗らないまま、ポジションについてボールを処理していく。
こんな状態で練習しても身になんねぇ事ぐらいわかってんのに。
うまく切り替えだができてねぇ。


「青峰判断おせーよ!!今のはサードでカットだろうが!!」
「すんません!!」
「ぼーっとしてんなら外れてろ!!」
「くっそ…もう1本!!」


集中しろ。
他の事に思考を鈍らせるな。


「っし次センター!!」
「あっした!!」


ダメだ、集中できねぇ…


「お前、大丈夫かよ。」
「洋一…」
「何があったか知んねぇけどよ…」
「わりぃ問題ねぇよ。」
「そうかよ。」
「あぁ。」
「(問題ねぇって顔じゃねぇけどな。)」


洋一に肩を叩かれそのままノック練から外れる。


「ま、そんな時もあんだろ。」


そのままキャッチをしながらだべる。
自分たちのノック練は終わったから、全員が終わるのを待つ。
いつもは他の奴の動きを見たりしてるが、今日はグラウンドへ目を向ける事ができねぇ。

洋一はそんな俺を見て、しかたないとばかりにため息を吐く。
それでも深くはつっこまずにいてくれる。

ほんっと、頭上がんねぇな。


「俺は別にいいけどよ。」
「おう。」
「そんな顔するぐれぇなら、最初からあんな事すんじゃねぇよ。」
「は…?」


そう言いながら洋一は後を振り返る。
そこにいたのはふて腐れたような、ばつの悪い顔した一也がいた。


「一也…」
「んじゃあな。俺は亮さんたちと飯行くわ。」
「あ、ちょ、」


そう言って洋一はさっさと寮へ帰っていく。
気づくと練習は終わったようだった。


「俺らも戻んぞ。」
「おう。」
「さっきは、悪かった。」
「いや、」


もとはと言えば、俺のせいだ。
俺が、


「こんな事いうの、恰好わりぃし言いたくなかったけど、言うわ。」
「嫉妬した、昔の事知ってるだろう哲さん達に。腹が立った、苦しそうな大輝を見て何もできない自分に。いつかっていつだよ、って。」


そんな、


「俺より、今のお前の方が苦しそう、だ。」
「俺はいーんだって。」
「よくねぇよ!!」
「大輝…」
「昔の事だ、全部、終わった事。でも、」

「待つよ。」


優しく、抱きしめられる。

いつもそうだ。
いつも、こいつは優しい。


「っ、」
「明日でも来年でも5年後でも、ずっと待つ。」
「おう。」
「だから、」
「ぜってぇ話す。」
「、おう…約束、な。」
「あぁ。」

「約束だ。」


そう言って笑って少し強めに抱きしめ返す。


「っし飯、行くか。」
「おう、つーか俺ら朝っぱらから何やってんだよな。」
「本当にな。」


そう笑って一也と並んでグラウンドを出る。
朝起きてからなんだかすっげ疲れたけど、まぁ、いいか。



「御幸と大輝の痴話喧嘩終わった?」
「よく分かんねぇっすけど、終わったみたいっす。」
「大丈夫だろう、あいつらなら。」
「ふん、御幸も気になるんならガツンと行けばいいんだよ、ガツンと。」
「ふふふ、あの頃の青峰君を知ってる私としては易々と御幸君にあげるのもなぁって思うのよね。」



月よ、星よと 眺むモノ 16



2016/1/3 來華

お久しぶりです。

なんだか長くなりました。
本当はクリス先輩とほのぼの〜だったはすが、御幸が急に大輝を無視したからびっくりです(苦笑)
後で修正するかもです。
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