月よ、星よと 眺むモノ 原作

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「………おい。」
「………………」
「………ったく…。」


面倒くせぇ…
最近こうゆーの多いな…


「飯食ったしいい加減部屋戻りてぇんだけど。」
「………………」
「はぁ…」


あの後、試合はまぁ、当然のように上級生が勝った。
増子さんもレギュラー返り咲きだし、新戦力も測れた。
まあまあ収穫のあった内容だったろう。


それに、


「リードのしがいのある投手が2人も増えたんだぜ?もっと嬉しそうにしたらいいじゃねぇか。」
「…別に。」
「そうかよ。」


漸く返事をしたかと思えば、思いっきり拗ねてますと言わんばかりの声色。

飯食った後、人の腕を掴み人気のない練習場に引っ張られてきた。
トレーニング用のマシンに座らせられ、人の腹に顔を埋めたかと思えば後はだんまり。

その様子を見ていた洋一はもちろん純さん達も仕方ないとばかりに肩を竦めて早々に立ち去った。


「つーか最近こんなんばっかじゃねぇ?」
「うーん…」
「おーい、聞いてんのかよ。」


腰はがっちりホールドされてるが、手は空いてる。
そのまま右手で頭を撫でれば、しがみ付く腕に力が籠るのがわかる。

暫くこのまま放っておけば落ち着くか…


「つーか、」
「うん?」
「だいちゃんは俺をどうしたいわけ?」
「はぁ?」
「…1年構い過ぎ。」


埋めていた顔の向きを変えて、下から見上げてくる。
一也の頭を撫でていた右手は、彼の左手に握られている。


「ふはっ…なんだそれ…」


しごく不満だと伝えられた言葉。
普段の余裕を纏っている姿からは想像しにくい態度、仕草。


「んな事ねぇと思うけど?」


それを崩してるのが俺だと思うと、少しの優越感。


「そうかよ…」
「おう…」


そんな一也の様子が可笑しくて、顔に笑みが浮かぶ。
そんな俺の様子にさらにふて腐れる。


ほんと、こいつ程、感情に素直な奴もいねぇよな。
分かりやすいっつーか。

洋一辺りに言っても顔を顰めて賛同はしてくれそうにねぇけど。


「じゃあ、」


ぎゅ、と右手を握る力が強くなる。


「あの時、ベンチ見る降谷見て何思った?」


ドクンっ…


「っ、」
「ただ仲間に入れない可哀想な1年、を見てたわけじゃねぇだろ。」


「青峰君がすごすぎるんだって…」

味方のはずの奴から向けられる、畏怖、侮蔑、羨望、嫉妬の視線。

「ただ勝てばいい」

結果を残せば後は何も必要ない、と突き放されて、



「っは、ひゅっ、…」
「大輝?おい、っ!!」


息苦しさが、襲ってくる。


「悪いっ…くそ…」


身体を起した一也に抱きしめられる。
包み込むように、優しく背中を撫ぜる両腕。
それに逆らわずにそのままされるがまま。
一也の胸に押し付けた頭から、耳から伝わる、少しテンポの速い脈動。


あぁ…


「大輝悪ぃ…落ち着け、ゆっくり、息吐いて…」
「っはぁ……」
「ほんと、わりぃ…」


『ここ』は違う…
あそこ、じゃねぇんだ…


「かはっ、わりぃ…」
「大輝…」
「ははは、お前が、慌てるとか超レアだわっ…」
「おいっ。」


落ち着いた呼吸に顔上げて笑えば、一也も少し笑みを見せる。

こいつの表情を崩せるのは良いが…


「っともう部屋、戻んぜ、」
「ちょ、おい…」
「一也、」


一也から離れて立ち上がる。
出口に向かって歩き出せば、慌てて一也が後を追って腕を掴まれる。


「わりぃ…」


何度目かの謝罪を口にすれば、強張る一也の身体。


「いつか…、」
「おう、いつか、な…」


そう言って笑って掴まれてない方の手で一也の頬を撫でる。

いつか、自分の口から言えるように。
いい加減、向き合って、受け止めて。



月よ、星よと 眺むモノ 15



2015/8/16 來華

ちょーっぴりしんみり。
いや、だいぶ?

過去の事は御幸ちゃんたちには話してません。
知ってるのは3年生たち。
なので御幸ちゃんはちょーとジェラってます(笑)
知ってる3年にも構ってもらってる1年生にも。

1番近くでべたべたしてるくせに何言ってんだって感じですよね
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