月よ、星よと 眺むモノ 原作
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「お2人さんよぉ…そろそろ邪魔すんぜ。」
「んなっ!!」
「今更照れんなよ、こんな場所でいちゃつきやがって。」
「っは、悪いな。独り身の倉持君の事無視しちまって。」
「あぁ!?」
笑いを含ませた洋一の言葉に段々と現状を思い出す。
思わず言葉に詰まった俺とは違い、一也は余裕綽々といったようで、既に試合の話に移っている。
2人の視線もグラウンドへ移っているようで、その2人の視界に極力映らないように一也からそっと身体を離す。
くそ…
まだ顔があちぃ気がすんぜ…
ぐいっ。
「っ!?」
ここにいろ
身体を離した俺に一也がもちろん、気が付かないわけがなく。
そっと離れようとしたが一也の左手に右手が捕まれる。
そして耳元でそう囁く。
「〜〜っ!!」
握られた右手をそのままに一也の左側に座り直す。
「お前らなぁ…御幸も御幸だけどよぉ。大輝も大輝だかんな。」
「っせ…」
「はっはっは!!」
そんな俺たちの様子に洋一は肩を落として呆れている。
しかし、それも一瞬。
グラウンドでは沢村を中心に騒ぎが起きている。
「お、いよいよ沢村の奴投げんのか…」
「つーか全部ど真ん中ってどんだけだよ。」
「ひゃはっ!!やっぱあいつバカだわ。」
案の定『打ちごろの真っ直ぐ』が打者の手元へ投げ込まれる。
「やっぱ独特だな、あの変化の仕方。」
「あぁ、このままコイツの球質に気づかねぇと…」
「痛い目、見るな。」
「あぁ?そんなに変化すんのかよ、アイツの球。確かに動いてるみてぇだけど、横からじゃはっきり分かんねぇな。」
完全に打ちごろだと油断して、舐めてかかってる奴らは気づかないんだろう。
おかしいと思った時には既に手遅れ。
打てねぇ、出塁できねぇ、攻めきれないまま試合が進む。
テンポのいいピッチングは周りもを巻き込んでいい流れをチームに引っ張ってくる。
「ははは、やっぱあいつ良いな。」
沢村の球質について話す一也達を横目にベンチへと視線を向ける。
と、それを見つめる1年。
「っ…」
別に話した事ねぇし、ってか、名前すら知らねぇし。
けど、
降ろしていた腰を上げる。
「大輝…?」
盛り上がる輪に入ろうとしない。
いや入れねぇのか…
自分の事でいっぱいいっぱいだし、他人の、それこそ後輩の心配なんてしてる余裕なんてねぇ。
「行かねぇのかよ、あの中に…」
「え…いや…」
俺の言葉に一瞬そちらに目をやり、視線を足元に落とす。
単に人見知りで他人に馴染むのが苦手なのか。
まぁ見た限りでは自然と周りを引き付ける沢村とは違ったタイプ。
なかなか自分からは中にいけないのか…
それとも…
チームから、仲間から、疎外感を、感じてんなら…
「あー」
「?」
自分が言葉を持っていない事なんて、知ってる。
だからいつでも気の利いた言葉も出てこねぇ。
「自主練すんだろ?キャッチ、付き合うぜ?」
「っ!!」
そう言って足元に転がるボールを投げれば、驚いた顔した後、手に収まったボールを大切そうに握りしめる。
「あの、」
「青峰大輝、まぁ、よろしくな。」
「はいっ…」
別に、大勢入った1年のうちのたった1人。
「あの、キャッチボールは今度お願いします。」
「おう。」
「今は、あの、」
「一緒に試合見っか。…つってももう終わっちまいそうだけどな…」
「はいっ、」
「いるわけねぇだろお前とやれる奴なんて…」
「練習にはもう来なくてもいい…」
「あの、青峰先輩、」
「うん?」
「降谷暁です、よろしくお願いします。」
「おう…」
誰かに背を向けるのも、向けられるのも。
「青峰君っ…」
辛れぇって事は、俺も、知ってっからな…
月よ、星よと 眺むモノ 14
2015/8/16 來華
お久りぶり、です…
中々更新できずに、すみませっ