月よ、星よと 眺むモノ 原作

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控え組の2,3年と1年達の試合を余所に、主力組はトレーニングルームで汗を流す。
筋肉に負荷をかけるから今日は他の練習はできねぇな…


「おう大輝こっち空くから使えよ!!有りがたーくな!!」
「あ、あざっす…」


別に純さんのじゃねぇし…
でも口に出すと面倒だし、深くつっこむのは止そうと思ったんだが…


「別に純さんのじゃねぇのにエラそうっすね!!」
「あぁん?なんだぁ倉持文句あんのからコラ。」
「やべっ。」


いつもの調子で洋一が絡みにいったら逆に捕まってやんの。

そんな様子を横目に純さんにつかまった洋一からそーっと離れる。
俺まで純さんに絡まれたらたまったもんじゃねぇしな…


「逃げるんじゃねぇぞ大輝!!」
「げっ。」
「あぁん?」
「すんません…」


逃げようとしたのを目ざとく純さんに見つかり洋一と一緒に捕まる。


「お前ら10kgづつ追加するか?」
「純さん鬼!!」
「無理っすそんなん!!」
「ほらほら早く上げないと追加しちゃうよ〜。」
「亮さんまで!!」
「ふむ。いいトレーニングになるな。」
「ちょ、哲さん助けてください!!」
「やります、やりますから!!」
「おし、そんじゃ行くぜ。」


ほんと滅茶苦茶だな、この人達!!


ここぞとばかりに笑顔が輝く亮さんもこえぇが、こういう時にやっかいなのは哲さんもだよな。
天然無自覚だから手に負えねぇ…


「大輝?何か失礼な事考えてない?」
「い、いえっ。」
「ふーん?」


ま、今回は許してあげる。
そう言いつつ重りを追加してくる辺り、さすが亮さん。


ほんと、鬼だ…


それから暫く3年生たちにみっちり扱かれた後、哲さん達が試合を見に行くってんで渋々ついてきた。
つってももう終わってんじゃねぇの?ってのが素直な感想。


つーか行きたくねぇんだけど…


「大輝行くぞ。」
「いや、」
「こんだけ人数いるしよ、大丈夫だろ。」
「…おう。」


重い腰を上げて洋一と並んで歩き出す。


「つーか2,3年相手に食らいつける1年なんていんのか?」
「さぁ?でもせめて歯は立てて貰わないと詰まらないんじゃない?」
「自分の目で確認すればいいだけの話だ。」


先輩たちと試合の様子を予想しながらグラウンドを目指す。


「沢村は試合出してもらってんのかね。」
「さぁ…でも何かしらやらかしてくれんじゃねぇの?」
「ひゃはっ確かにな!!」


グラウンドに近づくにつれざわめきが大きくなる。


「騒がしいな…」


グラウンド、外野後方に備え付けられているスコアボード。
そこに記されている「1点」。


「っは…まじかよ…」


そのまま視線をグラウンドへ向ければ、そこには泥だらけの沢村がいる。
あいつが何かしたのか?


純さん達が騒ぐのを横目に一也の横に腰を下ろす。
さっき見ないと言った手前、なんとなく、気まずい…


「、」


そんな俺の様子見た一也を纏う空気が揺れた。
一也を伺うように見れば、やはりこちらを見ている。
ただその表情は想像していた、人をからかうようなものではなく、とても優しい表情だった。


「っ…」


気まずさは一気に吹き飛んだが、次に襲ってきたのは羞恥。
顔が火照るのがわかるから、余計に…


「そんな離れて座んなよ。」
「おう…」


表情だけじゃない…声色まで柔らかい。
ほんと、恥ずい…


顔だけ向けて視線は一也へと定まらない。


そんな俺の様子に焦れたのか、一也の左腕が俺の右腕をつかみ身体を引き寄せられる。


油断していたせいで、傾く身体を支えるための手も付けず、身体が思った以上に一也へ倒れこむ。
これから来るであろう衝撃に、思わず目を瞑る。


「ったく…」
「ちょ、かず」
「お前は大人しくここにいればいいんだよ。大輝。」


思った程の衝撃はなく、優しく受け止められる。


一也の肩に顔を埋めるような姿勢、握ってしまったユニホームに皺が寄ってる。
近づきすぎた距離。
頬に一也の髪が触れるのが、こそばゆい。


「〜〜〜〜っ。」


今度こそ、顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。


ダメだ…顔、あげられねぇ…

それが更に一也の肩に顔を埋める事になり…


「ははは、可愛過ぎだろっ。さっすが俺のハニー。」


うるせぇよ、ダーリン。

いつもなら、軽く言い返せる相槌も。

一也の左肩に吸い込まれて、音にならなかった。



月よ、星よと 眺むモノ 13



2015/06/18 來華
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