月よ、星よと 眺むモノ 原作

□05
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「あぁ…腹減った……」


春の大会でベスト16が決定したその夜。
飯を食いに行く前にいったん部屋へ荷物を置きに戻る。


ドアノブを回せば鍵がかっていて、室内も真っ暗で誰もいない事がわかる。


試合に帯同できなかった金丸は既に食堂だろう。
けどあの人はまだ戻ってねぇのか?
今日は早い帰りだっつてよな…


まぁあの人の事だ、毎回のように念入りに調整してるんだろう。
あまり無茶をするような人じゃねぇし。

俺が心配するだけ無意味っちゃあ、無意味だよな。


「っと…飯食うか…。」


粗方片づけを済ませるとラフな部屋着に着替えて外に出る。


「なんだよ、んな仏頂面して。」


そこには既に着替えを済ませた洋一が壁に寄りかかっていた。
ただその表情は不機嫌一色だ。


「別に…」
「別に、って面じゃねぇだろ…」
「生意気な後輩にちょーっとお灸を据えてやっただけだ。」


洋一はそう言い捨てて食堂へと足を向ける。
そんな洋一から少し遅れて後に続く。


その背中が語るのは不機嫌。
いや、とゆうより少し拗ねてる、のか?

さっき別れる前はご機嫌で部屋に戻ったはずだ。
それこそスキップでもしそうな勢いで。


って事は部屋に戻って何かあったのか…


「なーんであんな機嫌悪いんだ、倉持の奴。」
「一也…」


どうした物かと思案していれば同じく着替えの終わった一也が合流した。


「着替えて戻ったら既にあぁだった。」
「うーん…何かした?」
「お前が?」
「俺が?」
「俺は何かした覚えはねぇよ。」
「はーはっは!!俺もねぇよっ。」

「お前らうっせぇよ!!」


一也と顔を見合わせ、肩を竦める。


よくじゃれ合って怒鳴られる…とゆうか、そういった事は多々ある。
けれどこう、本気で怒鳴られる事は滅多にない。


本当にどうしたもんか…


「つーかこっち食堂じゃなくね?」
「ほんとだ…おーい倉持、」
「あ…」


いつの間にか食堂への道を外れていて。
進路を正そうと一也が洋一に声をかけようとした矢先。
寮の裏手で黙々と素振りをする増子さんがいた。


「増子さん…」
「増子さん、レギュラー外れちまったんだよな。倉持それ気にしてたのか…」


たった1つのエラーだった。
簡単なサードゴロを取りこぼして、相手に出塁を許し、結局次のランナーにバントを、長打を打たれ点数を取られた。


1つ1つのプレーに厳しい片岡監督だ、すぐその場で交代、2軍降格を告げた。


もしあそこでボールがサードに飛ばなければ、俺がサードだったら…
たらればの話をしたところで、結局は結果論。
結果が全てのこの世界じゃ、いい結果を残したものが正しい。


「同室だしな。」
「あぁ…」


けれど、そう割り切れるもんでもねぇ…


「どうっすか…声かけんのもなんかな…」


洋一は増子さんに話しかける気はないのかずっと見てるだけだし、増子さんも気づく様子はない。


こうゆう時、どうすりゃいいのか…
一也も俺も気の利いた事言うのはニガテだしな…


「そんな所でどうした?」
「早く飯行きなよ。」

「哲さん、亮さん…」
「いや、あの。」


どうしたもんかと悩んでいれば、後ろから掛けられる声に振り向けば哲さんと亮さんがいた。


「増子と倉持か…」
「ふふふ、心配になっちゃった?」
「いや、なぁ?」
「倉持も機嫌悪そうだし、こんな雰囲気だし…」


そう言って困ったと先輩2人を見れば、その先で2人は優しく笑ってる。


「大丈夫だからお前たちは食堂へ行け。」
「でも…」
「いいから、いいから。こっちは任せておいてよ。」
「っす。じゃあお願いします。すんません。」


一也と目を見合わせ、お互いに確認しあってそのまま2人に頭を下げてその場を去る。

その去り際、


「純が食堂で待ってるはずだからさ、早く行ってやってよ。」
「「はいっ」」
「早くな。」


倉持と増子さんは心配だが、2人がそうゆうんだ。
大丈夫だろう。

励ますためだろう、軽く叩かれた肩。

そこに触れると、ほんのり暖かかった。



月よ、星よと 眺むモノ 05



2015/02/27 來華
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