短編
□バレンタイン
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チョコの甘い匂いに、赤やピンクの飾りが街を色付かせている今日。
バレンタインという行事はやはり恋人たちには特別なものであり、それは私たちも例外でなくて、私は仁王くんの家へと来ていた。
「はい、チョコです」
「ありがとう」
今年が初めてでないこの行為。
なのに何故だか緊張を感じてしまう自分に、心の中で笑ってしまう。
「じゃが今、固いのはちょっとのぅ・・・・」
「どうしたんです?」
「歯が痛いぜよ」
右頬を押さえる彼を見て、自然と眉間に皺が寄る。
腫れるほど悪くはないようだが、あまりそうゆうことに成らない人が故に心配になってしまう。
「それは困りましたね。無理して食べなくても・・・・っ・・・・んっ・・・・」
突然チョコを口の中に入れられたと思ったら、直ぐ様に口を塞がれた。
二人の熱でチョコが溶けて口内に甘い味が広がる。
「なっ何するんですか!」
「柳生の口の中で溶かして貰えば食べれるんじゃなかと思って」
「別に、自分でやればいいでしょう」
「この方が柳生の味がして美味しいんじゃ」
そうして不敵に笑う仁王くん。その表情に釘づけになった。
きっと私はこのチョコのよう。
貴方の視線に固まって、貴方のキスで溶けてしまう。
こんな乙女みたいな考えも全て、バレンタインのせいだといいんですがね。
ひとかけらチョコを取り口に含んで唇をあわせる。
ほらまた味わう。
チョコと貴方の味。