短編

□素直になる日まで
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夕焼けも闇に溶けた夜。



決して近くはない互いの家。
しかし彼はいつも家まで送り届けてくれる。

私は女子のようにか弱い訳でも、放っておくと夜遊びするような人間でもない。

それなのに彼は“心配だから”と言う。

彼も部活終わりで大分疲れてるはずなのに。





「仁王くん、本当に私は大丈夫ですから」

「まぁまぁ気にしなさんな」

「まぁまぁじゃなくてですね…」

「なぁ柳生。見てみんしゃい。星が綺麗じゃ」

「仁王くん!人の話はちゃんと聞きたまえ!」

「聞いとるわ。だから気にしなさんなって」

「でも君は今日真田くんにいつもの倍近く走らされていたでしょう」

「あんくらい平気じゃ」

「でも……」

「なんじゃ?柳生は俺に送られるのがそんなに嫌か?」

「そんなわけ…ッ!」

「なら構わんじゃろうが」





敵わない、彼のペース。

仁王くんは何時だって我が道を行く。

そのくせ私のことを大事に想ってくれて…



飄々とした横顔をじっと見つめた。


少しでも想いが伝わるように。


口下手な訳ではないが彼の前だと、どうも言葉が喉に詰まってしまって肝心な言葉が出てこない。


だから視線に気持ちを込めるのだ。



“ありがとう”と“大好き”と……





「…ん?どうした。…俺に見惚れちょったか?」

「な…ッ!仁王くんッ」

「ははは、冗談じゃよ」

「もう……」





きっと彼は気がついてる。

時々視線が絡んで愛しげに見つめてくるから。






「…大丈夫じゃ。お前さんの気持ちは伝わっとるよ、柳生」





弱虫で勇気のない私は今日もうつむいて頷くだけ。


それでも君の気持ちには負けない自身がある。


だって仁王くんと同じく、誰よりも君を想っているから…



だからもう少し勇気が出るまで、

待っていてくださいね…―――






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