短編

□貴方との距離
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私の少し先を歩く貴方。


そんなつもりは無かったのに、貴方の機嫌を損ねてしまった私。


それでも私を家まで送ろうとしてくれる貴方に、私は何て声をかければいいのでしょうか。


その答えを出せないまま、一歩一歩、家へと近づいていく。


いつも別れを告げる曲がり角まであと少し。


なのに貴方との距離を縮められない。


縮めたいのに出来ない。


それがとても歯痒い。


何を言うかなんて決まらないまま、焦る気持ちに押され、私は貴方の名前を呼ぶことしか出来なかった。



「仁王くん」


「なぁ柳生。見てみんしゃい」



私の言葉を遮るかのようにして、仁王くんが話しかけてくる。


私は言われた通り、見つめていた彼の背中から、上空へと視線を移した。



「これは・・・・雪、ですね」


「しかも初雪ぜよ」


「美しいですね」



天から降ってくる真っ白な雪たち。
暗くなった空に、よく映えて見える。



「そうかも知れんが、何だか余計寒くなったのぅ・・・」



マフラーに顔を埋め、突然足を止めた貴方。


急な行動に反応出来ず、自然と貴方の隣にきた私。


貴方は何も言わずに私の手をとり、再び歩きだした。



「柳生の手は温かいぜよ」


「仁王くんの手が冷たすぎるんですよ」


「そうかのぅ?そんなことないと思うんじゃが」


「何か温かい物でも飲みましょうか」


「家に寄ってもいいんか?」


「ええ、勿論ですよ」



人肌に触れれば、雪がすぐ溶けだしてしまうように。


この手に伝わる彼の温もりが、私たちの間にあった距離を、溶かしてくれた。


それが嬉しくて、人前であると分かっていても、彼の手を離すことはなかった。






お次、後書き。
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