企画

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いよいよ勝呂の誕生日を間近に控えた訳で、
私もいつも以上にそわそわしていた。

喜んでくれるかなぁー(この前それを想像して吹いたけど)とか、
ケーキ美味しいって言ってくれるかなぁー(ほとんど燐が作ったんだけど)とか。

志摩や子猫丸にも今の状況をこんな感じだ、と説明したら
ニコニコしながらガンバレ、と言ってくれた。


「楽しみだなぁっ!!」


20日まで本当にもう少しだ。
そういえば20日って24時間テレビだー、と思ったけど正直ごめんなさい。
毎年これからは20日だけは別イベントなんですっなんてことを、
携帯のワンセグを見ながら思った。


とりあえず当日の準備をしよう、と私は授業の終わった塾から帰宅するための準備を始める。
いつもなら、
もう少し丁寧にいれる荷物も
後少しの間はどうでもいい。


「蘭」

「ほえ?」


間抜けな声が出てしまい少し恥ずかしいけど、
私は
そのまま声のする方へ体を向けた。


「す、ぐろ?どうかした?」


そこに居たのは
企画の当の本人、勝呂だ。
多少驚いて言葉に詰まってしまったが、
大丈夫かな。

勝呂の顔を見れば、
なんだか不機嫌そうにも見える。
私が首を傾げて聞くと
勝呂は低い声で答えた。


「最近なんしとん」

「・・・え?」

「塾終わったらすぐ帰りよるし、俺を避けとるやろ」

「や、さ、避けてないよっ!!」


確かにすぐに帰ってるのは事実だ。
けど、勝呂を避けてるつもりなんて微塵も無かったのだ。
もしかしたら、私も知らないうちにばれないように用心してたのかもしれない。


「避けとるやろうがっ、!!」


私がごめん、と口を開きかけた時だ。
勝呂の声が私の声を掻き消して、その怒声に私も驚き、
はたりと動きが止まった。

これは、明らかに怒ってる。

まだ塾に残っている人が数名、私たちに目を向けた。


「や、勝呂・・・ちがくて」

「俺とおんのが嫌か?
なら言えばええやろ!!
コソコソと影で何しとるかしらんけど
どうせろくなことしとらへんのやろうがっ!!」

「は?っ、そんな言い方無いじゃん!!」


ろくなことじゃない、
の言葉についイラっとする。
ばれないように、勝呂を驚かせるために色々と考えて来たのに
そんな言い方、無いと思う。

もちろん勝呂だって私が誕生日を祝おうとしてることなんて知らないだろうから
怒るのも納得と言えば納得だけど。

子猫丸が勝呂を止めようとするが
つい私もムキになって声を荒げた。


「なんでそんな風に言うわけ??
勝呂にはなんもわかんないよっ!!」

「なんやねんっ
俺がなんもわからんってどういうことや!!
わかっとるわっ」

「っ、え・・・!?」


分かってると言われ内心酷く焦ってしまう。
ばれていた?
全部それじゃあ台なしだ。

折角皆協力してくれたのに。


「要は俺以外の奴やったら、誰でもええんやろ!?」


予想外、どころか
意味がわからなくて私自身眉間にシワを寄せる。


「お前が、志摩とか子猫丸とか
先生や奥村とえらい仲良うしとんのん
知らんと思っとったか」

「・・・・・・あ、」


全部見ていたのだ。
けどどうやら話の内容までは知られて居ないみたいで
それだけはこんな状況のくせして安心する。


「なんだ、違うよ勝呂っ
それは」

「男やったら誰でもええんやろ!
蘭がそないに軽い女とは思いもせんかったわ」

「っ、ねぇ勝呂聞いて!!」

「もうええ、触んな」


掴もうとした手を
音がするほど払われて、
私は呆然とする。
勝呂は吐き捨てるように言って、
私を冷たい目で睨みつけた。


「お前とは合わんのやな」


鞄を引っつかんで勝呂はさっさと教室を後にする。

その後を志摩が慌てて追いかけて、子猫丸が悔しそうに顔を歪め
私に何か言っていたが
上手く聞き取れなかった。


「蘭ちゃん大丈夫っ!?」

「しえ、み」


呆然と、椅子に座り込んで脱力する。
しえみが今にも泣きそうな顔で居るのを見て
何故かジワ、と視界が潤んだ。


「っう、・・・ふ、ぅっあ・・・、!!」


屈んで、優しく抱きしめてくれるしえみの肩に顔を埋め
私は、子供のようにしゃくりあげた。


勝呂の誕生日まで
あと1日。










誤解の前日
(誤解を解く声も届かない)








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