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□違和感
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私は、
勝呂竜司に嫌われている。


ズズっと音を立てながらジュースを飲む。
果汁100%のオレンジジュースのパックに注したストローを、
私は苛立ちから軽く噛んだ。



そもそも仲がいい訳でも、
特別な知り合いな訳でも、
クラスが同じな訳でも無くて、
ただの同じ塾の生徒。

そう、ただの生徒なのだ。
その生徒に私は

なぜか嫌われている。



「・・・ムカつく」


勝呂のことを考えるとイライラする。
あのトサカをひんむいてやりたくなる。


「いちいち、突っ掛かって来なくたっていいじゃんっ」


私が何かするたびに、
人を馬鹿にしたような態度を取られるのだ。
腹立たしいことこの上ない。

昨日だって廊下で軽くぶつかっただけで

「ボサッとすんなやド阿呆」

と言われた。
ちょっとぶつかって、私も謝ったのに!!
冗談じゃないっ


「なんで私があんなにも嫌われなきゃいけないのよっ!!」


そりゃ私は馬鹿にするな、というのが難しいくらい馬鹿だとも。
頭も良くない。

けどあそこまで言われるとたまったもんじゃない。


気づけば睨みつけられて、
何かすれば馬鹿にされて、

私がいつ何をしたっていうんだろう。



私は勝呂竜司が分からない。

あの男が分からない。


「・・・はぁ」


誰もいない教室で一人ため息を吐く。
最近ずっと勝呂関係でイライラし通しだ。
冗談じゃない。


私は飲み終えたジュースのパックを
自分の席からごみ箱に投げた。



ガラッという音。
パコッという音。



ジュースの容器は、
ごみ箱に入らなかった。
代わりに教室に入ってきた人間。



勝呂竜司に当たってしまった訳で。


「(あぁ最悪!!)」


結局自分から種を撒いてるんじゃないか。

勝呂は落ちたパックを見て、
私を睨みつけた。


「・・・なんや、喧嘩売っとんのか」

「違いますー
いきなり入ってきた勝呂が悪いんですー」

「あ゛ぁ!?
なんやとコラ」


勝呂は私を睨みつけながら、パックを投げつけて来る。
それをひょいと避けてやると、ますます眉間にシワが出来たのが分かった。


「・・・人おちょくんのも大概にせぇよ」

「ごめんなさいね」


勝呂が、私に歩み寄る。
目の前に立った勝呂が、私の腕を掴んだ。
力が強くて痛い。
骨が折れるんじゃないのこれ。


「何が気にいらんのやっ!!」


勝呂は私を見下ろしながら、怒鳴り付ける。
正直、怖いと思った。


「いっつもいっつも!!
お前はなんやねんっ!!
俺がそんなに気にいらんのか!!」


まくし立てるように言われ、
私もぐっと拳を握る。


「はぁ!!?
そっちがガン飛ばして来るんでしょ!?
なんで私が悪いの!?違うでしょ!!」

「っそれは、!!」

「人を馬鹿にするの、やめてよ!!
学校じゃクラスも違うし、
私が気に入らないんだったらもう関わらないで!!」


「私はあんたを気にするほど、
あんたのことなんか意識してないんだからっ」


言ってやった。
言いたかった事を全て。

勝呂は何も言わない。
何も言わない、勝呂の手は
小さく震えている。


「・・・っ、もう、えぇ」


がっと勢いよく腕を開放した勝呂は
そのまま教室を出て行った。
扉を開け放したまま。


「・・・なん、なの」


椅子にぺたんと座り込む。

勝呂は、
さっき泣きそうな顔をしていた。
怒りでも無く、
ただ泣きそうな。


「なによ・・・これ、・・・」


心臓が痛い。
私は心臓辺りをぐっと押さえて
勝呂が出て行ったばかりの扉を見ていた。





違和感
(胸を刺す痛みの名前は)






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