shortDREAM

□絶対条件
1ページ/1ページ





「死にたい」


開口一番に、それだ。
頭を殴られたかのような衝撃が走る。

泣きそうな顔をしている椿は
服にシワが付くほど拳を強く、固めていた。


「死にたい死にたい、・・・死にたいっ」


最近の彼女は荒れている。
以前までは落ち着いていたが、最近では
もう僕だけでは対応出来ない程まで
悪化していた。


「どうして?」


なるべく、優しく声をかける。
そうでないと彼女は見えない何かに怯え
ヒステリーを起こすだろう。


「生きていても、苦しい
痛い、」


虚ろな瞳が空を見る。
はたして、その目にあの青空は写って居るのだろうか。

僕は点滴に目を移した。
もうすぐ薬が終わる。

いってきいってき
落ちていく雫はどれだけ彼女を安心させるのだろうか。


「ここには、カッターも剃刀もハサミすら無い」

「椿が、使うでしょう」

「うん」


病院から渡されている寝着。
七分の袖の下から見える長袖。
その袖の下に隠された叫びは、
僕の心を痛め付ける。


刃物は全て没収した。
この部屋に、刃物は置いてはいけない、と
担当医が言ったのだ。


「切りたい、死にたい」


それは僕を試す言葉のつもりだろうか。
僕に誠意を示せと
椿は言っているのだろうか。

僕が出来ないのを知っていながら。


「先生、先生私もう死にたい
切れないなら、頑張れない」


下唇を噛み締める。
彼女の至福はなんだろう。
けれど彼女の至福は
僕にとってもひどく誠実ではないことだ。


「先生、私を
殺してください」


弱々しい虚ろな瞳。
こけた頬は、椿の美しさをかき消しているようで

僕はそっと、
彼女の手を取る。


「・・・これが、僕の誠意です」


彼女の目の前で、
緩やかな行為をする。
不思議と痛みなんてものはない。
けれど
椿の表情は悲しそうで
それが僕の心を傷つけるのだ。


「先生、貴方がしても
私は痛くなれない」

「でも僕は心が痛い
君が死を選択する度に」


そっと、
椿の手首にキスをする。

あぁ、今にも泣きそうだ。
震える唇が、潤んだ瞳が
僕にどうして、と訴える。


「先生は、誠実じゃない」


私の望みを叶えてくれないなんて。

けれどそれが、
僕にとって誠実な行為だ。
それを理解してくれないか。


「貴女を殺すことは出来ません」

「・・・」

「貴女が僕を殺せたら
僕も貴女を殺してあげます」


到底出来ない条件を
彼女にたたき付ける。

彼女を抱きしめて、髪の毛を梳くように撫でると
椿は静かに涙を流した。











絶対条件
(君と僕にとっての)




.


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ