shortDREAM

□ピアスホール
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右手が、つい、と自分の耳たぶを触る。
耳たぶにあったピアスの穴は
いつの間にか、しこりを残して無くなっていた。


「勝呂ー見てー
耳ーピアスー」

「日本語話せや」


隣に座っていた勝呂に声をかける。
ぶっきらぼうな返事、
私がねぇねぇとしつこく言っていると、
溜息とともに、勝呂が私の耳に指を当てた。


「ふさがっとるやん」

「んー」


ひんやりした手。
勝呂はしこりに触ると、手を、
自身の定位置に戻す。


「勝呂ー、開けて」

「はぁ?なんで俺やねん」

「ピアッサーあるから、
勝呂が開けて」


私はガサガサと鞄を漁って、白いピアッサーを手渡す。
呪文のように、勝呂、と言えば
勝呂も観念したように
もう一度溜息を吐いた。









「いくえ」


私のベッド。
勝呂と私しか居ない寮室。
勝呂は私の右耳に手を添え、ピアッサーを宛がう。

触れる針の感触は、耳が冷えてるから、わからない。


「勝呂ぉ」

「あ?」

「痛く、しないでね」

「・・・阿呆」


冗談を言って笑うと、勝呂も小さく苦笑する。


かしゃっ


「んっ」


じんわりとした鈍い痛み。
痛みというか、違和感。
続けて左耳も開ける。

久しぶりの感覚に、
決して痛くは無いんだけど
何故か視界がうるむ。


私が目にうっすら涙を貯めているのを見て、
勝呂はぎょっとしたように声を漏らした。


「お前、なんや
痛かったんか?」

「違う違う、なんでもないよっ」


泣く理由は無い。
強いて言うなら、


「勝呂に開けてもらえたから、嬉し泣き」


だっておそろいだよ?
そう言ってやると、勝呂はたちまち顔を赤くする。
阿呆と呟くと、ふいと顔を背けてしまった。


「私、好きな人と
お揃いなんて初めて」


嬉しいな、と語尾に付け加える。
恥ずかしいような、なんとも言えないむず痒い感じだ。


ぎし


私は動いていない。
けど私のベッドは軋んだ訳で


「す」


勝呂と私の距離が、ゼロになる。
耳から伝うのは
温かな物質の感触。

それが勝呂の舌なんて
私はわかった瞬間、一気に顔に熱を集めた。


「ちょっ!!、す、っすぐろっ!?
な、に」


耳から舌を離したと思えば、
次は唇にキスをしてくる。
けどそのキスは、触れるだけのキスだった。


「揃いが欲しいんやったら、
椿が喜ぶんやったら、なんぼでもくれたるわ」


口下手で、淡泊な彼が
私の為に言ってくれた言葉は
すごく、凄く嬉しかった。


「うんっ
ありがとう!勝呂!!」


私が勝呂にお礼を言うと、
勝呂はモゾモゾと動いて、
私に手を出すように言う。
私は素直に手を出した。


ころりと手の平に転がる、
さっきまで勝呂の左耳に居た
銀色のシンプルなピアス。


「・・・お前が、それ左耳につけたら
俺のんと揃い、になるやろ」


真っ赤な顔で言う勝呂の耳と
私の手の平のピアスを見比べる。

私は今きっと
真っ赤で笑顔ですごい顔だろうけど、
なんかきっとすごい顔なんだろうけど


「勝呂、大好きっ」


ありがとうの代わりに、私は彼に告白を述べる。


「・・・俺もや」


少し照れたように微笑む勝呂を見て、
早くピアスを付けたくて仕方なく、
手の平で光るピアスをもう一度見て

笑った。










ピアスホール
(をお揃いで)




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