shortDREAM

□出来た嫁には
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ざっざっ、と玄関先を箒で吐く。
雨が降った後なので砂埃もなくて助かる。


「いい天気だなぁ」


つい頬を緩ませて、空を見上げる。
青い空にちらほら雲が浮いていて、
あぁ快晴だなぁ。


「椿、おはようさん」

「あ、柔造さん
おはようございます!!」


柔造さんがいつもの格好で挨拶をしてきた。
それに応えるように私も笑って挨拶を返す。

少し垂れた目を細めて笑う柔造さんは、まるで大きい子供みたい。

無邪気な表情に私もまた表情が緩んだ。


「掃除しとんか?」

「はいっ!!
掃除大好きですからっ」

「ほぉー、偉いなあ
家の金色とピンク色に見習わせたいわ」

「あははっ、金造と廉造くんかぁっ!!」


そういえば、この前寄せてもらったとき金造と廉造くんがバタバタと文句言いながら掃除していたことを思い出す。


でも志摩のおばさんもきっちりしてる人だし、
居間も綺麗だった。

多分お部屋がすごいのかな?


「椿はえぇ嫁になるわ」


そう言い、柔造さんは私の頭を撫でる。
けど、私からすれば子供扱いされてる気分で
柔造さんを睨む。


「っこ、子供扱いしないでくださいっ!!」

「俺からしたらまだまだ子供やわ」

「っ私だってもう21歳なんだからねっ」

「ほーかほーか」


うわっ、絶対馬鹿にしてるっ!!

やり返したくても、身長が届かなくて何も出来ない。

私は小さく唸ると、
持っていた箒で柔造さんの足を掃いてやった。


「うわっちょ、やめぇ!!」

「柔造さんが悪いんだもんっ
私もう成人してるんだからっ!!」

「わかった、分かったから!!
堪忍えっ、」


頬を膨らませたまま箒を自分の方へ引っ込める。
柔造さんは苦笑している。


「けど、本間にえぇ嫁なるよ」

「お、おだてたって何も出ませんからっ」

「お世辞ちゃうわ、本間に」


いきなり真面目に言うもんだから
私は顔を赤くしてしまう。


けど柔造さんは、あっと声を出すと、
眉根を寄せて考え込んでしまった。


「あのっ、どうかしましたか?」

「ん?いや、・・・うーん」


私は首を捻る。
柔造さんはバツが悪そうに苦笑すると、
また私の頭を撫でた。


「笑わんか?」

「・・・は、はい、」


柔造さんは確認するように私に問い掛ける。
そんな柔造さんも可愛いなぁと私はふと思った。


「椿が、他所の嫁行くんも、
嫌やなぁ思うてな」


そんなことを言う柔造さんはまるでお父さんみたいで、私はついつい笑ってしまった。


「あ、こらっ笑わん言うたやろうが!!」

「だっ、だって!!
お父さんみたいなこと言うからっ」


私がくすくす笑いながら答えると、
柔造さんはえらくきょとんとしていて、


「柔造さん?」

「いや、俺が言うたんは

椿が好きやから他の野郎の嫁に行かすんは嫌や、思ったんやけど」

「・・・え?」


今、柔造さん
私のこと・・・好きっ、て・・・?


私が真意を問いただそうと口を開いた瞬間、
柔造さんは自身の時計を見て声を上げる。


「堪忍!!
お父に呼ばれとんねん!!
またな!!」

「へっ!?
あ、はっはい!?」


裏返った声を上げたときには、
柔造さんは小走りに離れて行った。


私はただ口を開いて、
その後ろ姿を眺めていた。









出来た嫁には
(させません、させませんとも)





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