shortDREAM

□私の胸を突き刺す孤独
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人はいつも一人だと、私はあいつに言ったことがあった。
小難しいことを言ったものだ、私は小さく苦笑する。

確か高校の、
そうだ夏。

熱く蒸した教室の隅。
私はあいつの存在を忌ま忌ましそうな目で見ながら。



「人はね、結局一人だよ
産まれさせられたら、後は飯を与えれば嫌でもでかくなってくの」


子供のことを、冷たく、
まるでゴミのように扱う親を見ると吐き気がする。
私はそんな境遇に居る訳でもなく、ただ親は死んだだけだった。

随分とひねくれた子供だった。


「なんで生まれるんだろうね
最後は死んで、逝くとこ一緒なのに」


天国だの地獄だの、
自分は信じていなかった。
サタンという存在さえ、実はビッグスケールな嘘でした、なんて
いつかそう言われるんじゃないかとも想像していた。


「人なんて、孤独な生き物だ」


熱い教室。
額からは、幾粒も汗が落ちて行く。
落ちて、逝く前に私たちは汗を拭った。


「金造も、一人なんだよ」


いつも回りに人が居たって、
そいつらは断りも無しに勝手に離れていくんだよ。

皆みんな、勝手に死んでいくんだよ。



親が死んだと聞いたときは、
裏切られた、
私を捨てて行ったのかあの親どもめ、と思った。

優しく声をかけて、大きな手が私を撫でて、
抱きしめて、手を繋いで、
あれだけ愛情を注いだ子供を捨てて、
勝手にあの世へ逝ったのかと。

親が一度だけ、私が小学生の頃、
遊んでいるうちに墓参りへ行ったことがあった。
私は確か目が腫れるまで泣いて、
私も連れていかなきゃ嫌だ、なんて散々泣きわめいたことがあった。

ごめんね、
今度からは絶対に椿も連れていくからね、
と二人して頭を撫でて、抱きしめて。



「私も、連れていくって
約束したじゃない」


熱い教室で、汗か涙かわからない液体をタオルで拭いた。
七回忌を明後日に迎えた日だった。

なんで私の誕生日なんかの為に、
わざわざ飛ばして帰ってくることがあるんだ。


「お前は一人ちゃうやろ」


泣きつづける私に、
馬鹿な金造は携帯を閉じて言うのだ。

馬鹿かこいつ。
人は一人だって言った直後に、なんで私は一人じゃ無いなんていってきやがる。


「お前には、俺がおるんやろ」


おるんやろ、なんて言われても
私は知ったこっちゃないのに。


「金造も、私を裏切る、
勝手に死んじゃう」

「誰が死ぬかボケ
勝手に殺すなや」

「でも死ぬくせに、 」

「死なへんわ」


頭を一発小突かれて、
金造を睨みつけると、金造は眉間にシワを寄せて、
いつも廉造と喧嘩するときの顔をしていた。





父さんと母さんの七回忌には、
勝呂と虎子さんと
志摩家の筆頭が息子を引き連れてやってきた。
蝮は来たけど、結局柔造兄さんと喧嘩していた。


その時に、
あぁ私はまだぼっちじゃないんだなぁ、とまた大泣きして
金造にからかわれた。
(後金造は柔造兄さんと志摩のおっちゃんに殴られてた)




「なんしとん、阿呆面下げて」

「シバくぞ」


今私は、
何故かあの忌ま忌ましい男と居る。
今年で付き合って4年になるらしい。


「金造に告白された日のこと思い出してた」

「はぁ!?」


何故か私は今こうして、
上手く笑えるようになっていて、
志摩家に住まわせてもらっている。


金造が阿呆阿呆と言って来るので、馬鹿と言ってやった。
その一言に、金造は黙る。
そして私の頭をごしゃごしゃと撫でた。というか引っ掻き回した。


「一人ちゃうやろが」

「・・・そうだね」


金造の言った通り、
未だに私は一人じゃない。
それどころか、
私を囲んでくれる人は増えた。

私が笑って返すと、
「そろそろ子供でも作ろか」なんて言って来やがったので、
私は腹部に一発パンチを入れる。
明日、もしも晴れたら
恋人を連れて墓参りに行こう、とぼんやり考えていた。


父さん母さん
あんたらの娘は今、多分幸せなんだと思います。




私の胸を突き刺す孤独
(そんなものはもう、無い)














[企画*志摩うま様に提出*8/1]
ありがとうございました!



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