shortDREAM

□泣き顔にKISS
1ページ/1ページ





「竜ちゃんっ」


とてとてと音を立てるように
椿は俺のところに走って来る。
髪の毛がふわふわ揺れて
小柄な体がかろやかに足を進めさせる。


かいらしい、
なんやねんこのかいらしい生き物



「竜ちゃーん!!

わっ!?」

「っ、椿!?」


ずしゃぁぁぁぁっ
という派手な音が、椿の転倒した音だと理解するのに
少しだけ時間がかかった。


「っ、・・・椿、大丈夫か・・・?」

「は、ぅっ・・・
竜ちゃん、・・・ごめんね・・・」


潤んだ瞳が
痛い、と俺に訴える。
そんな椿は俺を見上げる形になっていて、


これは、まずいんちゃうか。
俺の理性的に。


見上げる椿の姿が、あまりにもかいらしいて
俺は唾を飲み込んだ。
ぺたんと座り込んだ格好は、白い太ももが嫌でも目に入るのだ。


「ごめんね竜ちゃん・・・」

「か、かまへん」


俺が差し出した手を取りながら
椿はゆっくり腰をあげた。

恥ずかしそうに、
顔を伏せていた椿の瞳は
俺を捕らえると一気に潤んで、
涙をこぼす。


「うーっ・・・、りゅ、ちゃっ!・・・」

「ちょ、なんっ!?
どないしてん椿っ、」


そないに痛かったんやろか。
ぼろぼろ涙を零しながら
椿は竜ちゃん竜ちゃんと繰り返す。

そんな椿をなだめるように
俺は出来るだけ優しく
背中をさする。


「りゅ、うちゃん、・・・」

「落ち着いたか?
どないしてん、まだどっか痛いんか?」

「、・・・ちがくてっ」


ぷるぷる首を振る椿を
忙しいやつやなぁ、と思いつい頬が緩みそうになるのをぐっと堪えた。
そんなかいらしい椿は、怖ず怖ずとした様子で口を開いた。


「私、おっちょこちょいで、
ドジで馬鹿だから・・・っ
竜ちゃんに、嫌われてないかなっ、て・・・」


言いながらも瞳が潤み
今にも号泣しそうな勢いだ。


「私は竜ちゃんが大好きだからっ・・・、
お願い、嫌いにならないで・・・っ」



俺は盛大にため息を吐く。

これやから天然は困る。
無意識に人を喜ばせるというか、
煽るというか・・・
だからこいつはタチが悪い。


「・・・阿呆か
なるわけないやろ」


むしろ好きすぎてかなんわ、
と言いそうになって
柄やないことをしそうな自分は
慌てて口を閉ざした。


「ほ、ほんと・・・?」

「・・・おん」


くりくりとした目が俺を捕らえて
椿の頬は徐々に赤色を帯びていく。

少しくらい、
柄じゃないことをしたってええやろか
そんなことを思って、

俺は椿の額に唇を押し付けた。

椿はまるで金魚のようにぱくぱく口を動かしている。


「りゅ、っう!?」

「なん」

「いっ、いつもと、ちがう・・・」


真っ赤な顔で俺にボソボソ言う椿の頭を撫で


「・・・たまにやから、ええやろ」


と呟いた。
椿の顔はまだ赤かったが、
ぎこちなく微笑むと手を握って来る。

その小さな手を握り返して
俺は椿の手を引くようにまた、足を進める。





泣き顔にKISS
(照れた君の手を引いて)






.


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ