shortDREAM

□ひとりでできるもん
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私と勝呂くんは付き合っている。
お付き合いを始めて早2ヶ月を経過しようというこの頃、
私は悩んでいた。



「私、勝呂くんにいつもしてもらってばっかりなんだよう・・・」

「坊にねぇ・・・」


相談役に抜擢した志摩くん目の前に
私は悩みを打ち明けていた。



「だって、
デートだって祝い事だって、
き、きすとかだってっ
全部勝呂くんがリードしてくれるからっ!!
いつか私飽きられちゃうんじゃないかって・・・」


打ち明けた通り
私は恋愛経験が皆無で、
お付き合いをどうすればいいのか分からない。

そんな私を知ってか知らないでか、
勝呂くんはいつも私より一歩前を歩いているのだ。

何もできない私をいつか彼は飽きて捨てちゃうんじゃないだろうか、
そんな心配を志摩くんに打ち明けた。
志摩くんは微笑みながら相槌を打って聞いてくれる。



「そない心配せんでも、大丈夫や思いますけどねぇ」

「ううんっ
駄目なのっ!!
私から何かしないとっ」



私だってちゃんと出来るっていうのを
勝呂くんに見せたいという意味もあるが・・・

うーん、と志摩くんは唸ると
ゆっくりとまた口を開いた。


「ほないなら、
自分から手繋いで、竜士くんて呼んだらどないです??」

「っ!?わわわわわっ私がっ!?
手を繋いでっりゅっりゅーじくんって、そんなの無理だよっ!!」


そんな恥ずかしい!!
手を繋ぐなんて、勝呂くんからされても緊張するのに、
しかも竜士くんって!?

私は声を上げて一気に顔が熱くなるのを感じた。
そんな私を見て志摩くんは
「かいらしいなぁ」なんて言ってる。


「坊がメロメロなんもわかりますわ
こないに可愛いらしいと目も離されへん」

「やっ、やめてよっ!!
可愛くなんて無いもんっ」


可愛かったら苦労しないよっ、と付け加えておく。
志摩くんは
あはは、と笑いながら私の頭を優しく撫でた。


「けど付きおうてもう2ヶ月なんでしょ?
そろそろ名前で呼んだる時期ちゃいます?」

「う・・・、ん」

「坊、喜ぶ思いますけどねぇ」

「っ勝呂くんがっ!?」

「きっと喜びはるよ」


勝呂くんが喜んでくれると聞いて私は一気にやる気が出てきた。

手を繋いで竜士くん、だ。
簡単だよっ私だってきっと出来る!


「有難う!!
志摩くんっ!!私頑張るよっ!!」

「応援しときますわ」



志摩くんはひらひらと手を振りながら笑顔を見せる。
その笑顔に答えるために
私は教室を飛び出して勝呂くんのところえ向かった。




「はぁー・・・本間、かいらしいわ・・・」














きぃ、と小さく軋む音がして
私はそっと扉を開ける。
自習室は人がいないのだろうか。
すごく静かだった。


「す、ぐろくーん・・・」


人は居ないけど、自習室という特別な部屋で
私は出来るだけ声を抑える。

やっぱり居ないのかな。


「椿?」

「ひゃぁぁぁぁぁぁっ!?」

「うわっ!?

な、なんやねん!!」

「すっ勝呂くん!!
びっくりさせないでよっ!!」


私が諦めて戻ろうとしたとき
不意に声が降ってきて、自分でもびっくりするくらいまぬけな声が出た。

勝呂くんもびっくりしたのか、
大きく目を開いて私を見ている。


「お前が呼んだんやろうがっ」

「あ、そうか!!
あはは・・・」

「・・・ったく、なんやねん・・・」


そういえば私が呼んだんだっけ。
でも自習室に居たんだ、よかった。
安堵の思いからつい顔から力が抜けて
私はへにゃっと笑って見せた。


「・・・なんかあったんか?」

「へ?いや何も、あ・・・」


勝呂くんにそう聞かれて私ははっとする。
本題を忘れてたっ!!

私は勝呂くんを竜士くんって呼ぶために勝呂くんを探してたんだった!!


「・・・す、・・・ろじゃなくてっ」

「なん?」

「あ、えっと・・・」


勝呂くんは怪訝そうな顔をしている。
早く言わなきゃっ


「用事ないんやったら、後でええか?
どうしても仕上げなあかんやつあんねんけど」

「あ!!え、あ・・・う、ん」


勝呂くんは堪忍、と言いながらぎこちなくはにかんで私に背中を向けて席に向かう。

邪魔しちゃいけない。
私は後でもいいじゃないか。



でもー・・・


「勝呂くんっ!!」

「な、・・・ん・・・?」


私は背中を向けていた勝呂くんの左手を両手で捕まえるように持って
ぎゅぅっと握った。


「は、?ちょ、お、椿!?」


勝呂くんの顔はみるみる赤くなっていく。
きっと私も赤いんだろうな、
なんて思いながら
ゆっくり口を開いた。



「竜士、くんっ」

「・・・っ、」


恥ずかしくて視界がうるむ。
でも言えたっ。
竜士くんて言えたよ志摩くん!


けれど何故か
勝呂くんは口を手で覆ったまま
顔を背けてしまった。
まさか名前を間違えたのかな!?
それとも名前で呼ばれるの嫌だったのかな・・・!?


「・・・す、すぐ」

「ちょお、こっち見んな・・・っ」

「・・・っご、ごめんなさい」

「・・・何謝っとん、」

「名前で、呼んじゃ、ダメだったのかな・・・って
ごめんね?すぐ」


勝呂くんって言おうとしたら。
不意に勝呂くんが抱きしめて来るもんだから
言葉が詰まってしまった。


「すす、っす、すぐろっく!!」

「・・・竜士、って
呼べや・・・」

「・・・!!、え、ぁ
いっ、いーの!?」

「当たり前やろっ!!
う、嬉しいに、決まっとるやろが・・・っ」


確認は出来ないけど
きっと勝呂くんも顔が赤いから
見られたくないのかな、とちょっと嬉しくなってしまった。

私だけが恥ずかしいんじゃなかったんだっ!!


「竜士、くん」

「・・・おん」

「・・・竜士くんっ、」

「・・・、椿」

「っ竜士くん、大好き!!」


思いきって好きと言ってみたら
勝呂くんは
俺のほうが好きや阿呆、と言われてしまった。



「これからもっ竜士くんって呼んでいいかなっ!!」

「別に、・・・構わんえ」

「う、っうん!!」



その日から私の恋人は
勝呂くん改め
竜士くんになりました。











ひとりでできるもん
(後で友達にからかわれたのは
また別のハナシ)






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