shortDREAM

□売り言葉
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「・・・なん」


腕の中に居る小さなかいらしい少女は
怪訝そうに眉寄せてじっと俺を見上げる。
ほそっこい腰。
容易に手を回せてしまう程。


「今、椿ちゃん不足なんですわ」


にっこり、という擬音が付きそうな笑顔で
俺は答えた。


椿ちゃんはなんとも言えへん顔をしてまた本に目を移す。

照れてはるんやなぁ。

照れると髪を触る癖に
彼女は気づいとらへんのやろか。
俺は付き合ってしばらくでそのことに気づいた事実


「ほんま、かいらしいわぁ」


少しだけ、腕に力を込めてみた。
椿ちゃんは軽くみじろいで腕から逃れようとするのだが


「はな、しよしっ・・・」

「椿ちゃんはかいらしい」

「・・・そんな安い言葉なんぞ、
いらん」


誰にでも言える言葉をあてに言わんで、

と椿ちゃんは言い放つ。



椿ちゃんの言っていることはもっともだ。
女の子は、皆かいらしい。
せやからかいらしいという言葉を言わずにはおられへん。



けど、


「椿ちゃんは、一番かいらしいんよ

俺の一番好きな女の子は
椿ちゃんだけやで」



そう言うと
椿ちゃんは真っ赤になって黙ってしまった。

小さく、ど阿呆、と呟き顔を伏せて本を読む。


「椿ちゃん、」

「・・・なん」

「好きやえ」


「・・・・・・黙り、万年脳内春男」


そんな椿ちゃんの手元の本が
一向にページがめくられないことは
言わず黙っておこうか。


不意に椿ちゃんが口を開く。
聞き取りにくい小さな声で。




「あても、一応
好き、なんちゃう」


と、まさに蚊の鳴くような声で言われたら
あぁもうなんてかいらしいんやろか。
それは本間、反則ちゃうやろか。



照れてるのが丸分かりな彼女の様子が愛しくて
俺はまた強く抱きしめて


「椿ちゃん、本間かいらしい」


と呟いた。

かいらしい彼女は何も言わなかったが
俺は口元の緩みを直すこともせんと
椿ちゃんを抱きしめていた。



そんな塾も学校も休みの
平凡な一日。








売り言葉
(かいらしい君)







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