shortDREAM

□さびしがりのおばけ
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あ、あ、
やばい。

そう思ったときには、もう大体手遅れで。


「・・・あぁー」


自分には、涙腺が馬鹿になる日が時々ある。
悲しい?怖い?腹立つ?
どの感情にあたるのかも分からんけど、事実目からは水が流れ出して。


「もー・・・めんどいなぁ」


幸い、今は部屋に一人きり。
枕に顔を埋めて涙が止まるのを待つ。
嗚咽が出る訳じゃなく、ただすーっと溢れ出るもんやからどうしようも無い。


いつもは、大体こういうときはなぜかいつも金造か柔造が側に居てくれるのだ。
肩を貸してくれたり、
背中を貸してくれたり、
ただ泣かしてくれる。
そしたら大体すぐ止まってまうんやけど


「(一人んとき、これどうやったらいいんやろ)」


ぼろぼろ零れる涙が、枕をびちゃびちゃにする。
止まれ、止まれと念じても
楽しいことを考えようにも、
体の中がすっからかんになったみたいに何も考えられへんくて。




まるでこの世界にただ一人、
そんな気がして。


「(いや、や)」


あかん、本間止まらん。
一人きりの部屋。
鳴らない携帯。
家主が他に居ないこの家で、私はたった一人きり。

出る涙が変わった。
ひっきり無しに涙は溢れて、口から喉から腹の中から嗚咽が零れ出して、体が震えて、頭の芯が熱くなって。


「(よわ、)」


常々、弱いことくらい理解していた。
こんな私が坊を御守りするなんて一生むりやろうなってくらい。
廉造みたいに割り切れたらいい。
子猫みたいに必死になれたらいい。

私は、これじゃ
感情を持たないおばけやないか。


けど、おばけは一人きりほど怖いものがない。

怖い、怖い、こわい?


「(私は、怖いのかしら)」


呼吸が乱れる。
苦しい。
過呼吸かもしれない。
酸素、要らない。


「は、っひ」


一人じゃ、対処することも出来ない。


「・・・た、けて・・・っぞ・・・ぅ」


手が空を泳いだ。
指先が何かに触れた気がした。
ただの気のせいやろか。


「椿」


今度は、はっきり声が聞こえた。
けど視界が霧がかかったみたいに白く濁って
だれか分からへん。


自分の手がだれかに強く、包まれた。
暖かい大きな手。


「お前は、一人ちゃうんや」


一人じゃない。
大丈夫。
その声が鼓膜で何度も響いて聞こえる。


「大丈夫やぞ」

「・・・、・・・ぞう・・・」


だれかの名前を
自分の口は零したけれど
その名前がだれかも私は分からず、
落ち着いた呼吸を取り戻して
重たい瞼を閉じた。


そうか、私は
「寂しかった」んだ。
その答えは目覚めたときには、また忘れているのだろうか。








さびしがりのおばけ
(寒い寒い、ありがとう)







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