shortDREAM

□この感情の名前は。
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お別れしようか。

そんな短いメールを送ったのは小一時間前くらい。
ちかちかと電池残量が光る。
うん、と肯定メールが表示されている画面を
意味もなく指でこすった。


4回目の失恋は、あっけないものでした。

2回告白して失敗して
1回告白されて付き合って失敗して

今回は告白されて、付き合った。
そして結局失敗した。
所謂倦怠期という奴で。



「す、き」


何回その言葉を言っただろう。
多分片手で足りるくらい、だったかな。
とりあえず付き合っただけの私と彼は、その言葉を口にすることも面倒だったのかもしれない。


本当の恋愛を、
私は知っているのだろうか。






「椿?」


携帯を閉じた。
それを合図にしたように開いた扉。
志摩廉造。
廉造なんて、古めかしい名前だなっていう第一印象だった。
ピンクに染めた髪の毛がふらふらと漂う。


「志摩だ」


まだ居たんだ。
呟いた言葉に彼はへらりと笑って見せる。
同い年には見えない程可愛いのは、やっぱり末っ子だからだろうか。


「なんやしょぼくれた顔してはる」

「うん?」


ぐに、と頬を人差し指が押した。
誰にでもこうやって打ち解けることが出来るところがきっと彼の持ち味なんだろうな。

触れた指があまりにも自然だったから、私は振り払うこともせずされるがまま。


「やらかっ」

「デブって言いたいのか」

「ちゃいますて」


ひんやりとした温度が伝わる。
その指が手の平に変わって
手の平は私の目を覆い隠した。

正面から隠されても、誰だか分かっちゃうよ。
私は志摩を探すために手を空にさ迷わせる。
指先に、髪の毛がかすったような気がした。


「志摩、どこ」


見えないよ。

何も、見えないよ。


「何を焦ってはるん」

「え?」


声は聞こえた。
目を隠す手を頼りに腕を掴んで仕舞えば志摩の位置なんて分かるのに。
さ迷わせていた手をゆっくり机に置いた。


焦っているのだろうか。
何に?
恐れているのだろうか。
何に?

彼氏という存在が消えて
たった一人になることに?


視界が開けて目の前に志摩の顔が一杯に広がる。
優しく触れた唇に、悪意は感じなかった。


「志摩、」

「俺と付き合ってくれへん?」


志摩の問い掛けに問い掛けをしようと口を開いたのに。
志摩は見計らったように私の声を遮って。


「けど、」


私は本当の恋を知らないよ。
だからきっと好きになれないかもしれないよ。

そんな言葉を飲み込んだのは、
少なからず私が彼に好意を抱いたからかもしれない。


「、」


唇が少し、震えた。


「じゃあ、付き合おう、か」


冷たい雪がちらついていた3月。
私は5回目の恋をした。












この感情の名前は。
(恋というには幼くて)









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