shortDREAM

□使用上のご注意
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「ぶぁっ!!ざむっ!!」


窓から流れ込んで来る風の冷たさに悲鳴をあげた。
いやいや、だって寒すぎるんだもの。
冬に寒いのは当たり前だけど、最早迷惑だ。


「んー」


鼻をすすればずずっと詰まるような音がする。
鼻風邪って本当嫌だ。
寝ると息が詰まるし。
パブロンの躍起飲みはほとんど効力を持ってなかったみたい。

窓を開けたせいで散らばった書類をひっつかんで集める。
その間にも風は容赦なく部屋を満たした。

開けなきゃ体によくないし。開けざるを得ないのだ。
何も好き好んで開けてる訳じゃないわよ。


「なんや、まだおったん」


入口が開いたから目をやれば、黒髪の好青年A、
志摩が目を細めて笑ってる。


「鬼畜」


私は一言だけ返してまた書類とにらめっこを始めた。
私に回ってきた生徒会の書類。
全然出来てなさすぎて泣ける。

志摩はゆっくり私の方に来て鞄をそこらへんの机に置いた。
寒くもなんともありません、そんな感じなのが余計に腹立つ。

こいつのせいで窓を全面解放しなきゃいけなくなったのだ。

風邪引いてるんやから暖かくしなあかん、けど空気悪いから窓開けぇ。

どついてやろうか。
けど窓開けなきゃ強制帰宅だってんだもの。そういう訳にはいかないのだ。


「ざ、ざむい・・・っ」

「窓開けとるからなぁ」


誰のせいだよ!!
志摩は紳士面で微笑んでるけど、首に巻かれたマフラーやブレザーが憎い。


「なしてこない寒いのにマフラーもブレザーも付けてこおへん」

「うっせ!!」


仕方ないじゃん。昨日はあったかくてブレザーもマフラーも持ってこなかったのに、
志摩の寮部屋に連れていかれたんだから。


「あるわげ無いれしょっ」


鼻づまりのせいで迫力が微塵も無い。
そのせいで目の前の野郎は笑ってるし。

志摩が視界から消えた。
帰ってしまえと念じてみながら書類をまとめる作業は怠らない。


「、わ」


ぽす、と肩に重さが増えた。
首を締められるっなんて思ってると、それはただのマフラー。
じゃぁこれは?と肩を見ればブレザーだった。
気のせいかもしれないけど、線香の香りがする。


「暖かくしなあかんやろ?」

「志摩が、さむいじゃん」

「せやなぁ」


ニコニコ笑って言う志摩に、胸の奥がきゅうとする。
胸の奥がぽかぽかと満たされて、慌てて顔を逸らした。
だって今、絶対顔、赤い。

こういうとこが腹立つのだ。
笑って何気なく私の為に何かしてくれるとこが。

こういうとこが、本当に好きなんだ、ろうな・・・なんて。

また窓から風が吹いた。
私はさっきと比べたら随分暖かくて身震いも叫ぶことも無い。
微かに志摩の顔が寒さに強張ったのを見逃すはず無いじゃないか。


「・・・志摩、今日だけだけどさっ」

「ん?」

「・・・・・・私を湯たんぽ代わりにしても怒らないけど」


昨日の夜寒いと言いながら私をぎゅーと抱きしめてきたのはあっちだ。
別に変なことは言ってない。
らしくないだけだし。


「ほな、甘えさせてもらおかな」

「う、ん」


なんでもない振りをしながら頷いて腰を上げる。
促されるまま志摩が座った上にちょいと座って太いしっかりした腕が腰に回された。
自分で言ったんだけど、恥ずかしい。
風邪のせいできっと頭がおかしくなってるんだ。
風のせいもあるし、そうだ。うん。


「椿、早う治しや?」

「うん」


志摩がとん、と私の左肩に頭を乗せる。
背中も胸の奥もなんだかぽかぽかしていて、少しむず痒い。

また、窓が揺れて風が空気を入れ換える。
そのわりに全然寒くなく、むしろ熱い。


こんなふうに少しだけらしくなくなれるなら、
風邪も悪くないかな、と思ったのも
全部全部、風のせい。










使用上のご注意
(のぼせには気をつけましょう)








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