shortDREAM

□アフターバースデー
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別に、言い訳がしたい訳じゃない。

いきなり仕事が入ってしまって27日が埋まってしまった。
それだけなんだけど、悔しかった。

もうクリスマスの名残は無い。
冷たい風を裂くように小走りで歩けば、すっかり辺りはお正月ムードに包まれていた。
右手にぶら下げた紙袋二つ。
手持ち無沙汰な左手はコートのポケットに避難。


「もう、7時になるし・・・」


紅白歌合戦が始まる時間が迫ってる。
けど、正直今の私は五○ひろしや小林○子はどうでもよくて、
芦田○菜ちゃんよりも大切な物があって


「た、だいまっ!!」


軋む扉を全開に、
人が居るはずの教会に転がり込んだ。
あまりの私の剣幕に驚いた様子で神父、
藤本先生が私の方に歩み寄るのが視界に入ってつい顔を崩した。


「椿、お前大丈夫か?」

「げほっ、!!おぇ・・・
う゛・・・なんとか・・・」


急に止まったのと教会内のほこりくさい空気にむせる。
藤本先生が背中をさすってくれて、ほかの皆が微笑ましげにお帰りをくれた。
その言葉がついつい嬉しくて、既に頼りない私の顔をが余計に緩む。
お帰りって偉大な言葉だなあ・・・。


「あの・・・っげほっ、
もうアウトですかね・・・」

「さーなぁー・・・
相当な剣幕だったぞ?あいつ」

「ちょ!!まじですか!?」

「あぁ、主に燐がな」


やっぱり、と緩む頬が引き攣るのを感じた。

27日はそもそも予定があったのだ。
そこに一本の電話。
先輩からの残酷な任務の指令。
慌てて他を当たってくださいなんて言ったけど、
祓魔師はそんなバイトみたいな感じじゃないので即呼出し。
なんでシフト制じゃないんだ、なんて初めて怨んだりして
結局今に至る。


「誕生日から4日たってるもんなぁ・・・」


そう、誕生日だった。
あの奥村兄弟の年に一回きりの大事なイベント。
前々から約束していたのにドタキャンしてしまった自分を怨みたい。
いや、怨むべきは忌まわしき上司かな?


「二人は・・・?」

「今は部屋か奥に引っ込んでんだろ。
それか丑の刻参りだな」

「もう!先生っ!!」


不吉なことを言わないで欲しい。
ただでさえ頭が痛いのに。

軽く頭を下げて、ブーツをとことこ言わしながら奥の扉に手をかけて開いた。
底の剥がれそうなブーツが、何かを蹴った。
軽くつま先に当たったソレを見ると、
自分の顔の筋肉が全部固まったのかとさえ感じる程、痛い。


「りん、」


ぶーとほっぺをこれでもかと膨らませた少年が、そこには居た。
顔に貼ってある絆創膏とガーゼが増えてる。
また喧嘩をしたのだろうか。

私は慌てて体を屈めて燐に手を伸ばした。


「うそつき」


責めるような言葉が、ぴたりと私の動きを止める。
私を非難するように大きな目が私を見た。
あどけない少年の顔にある二つの青い目が、
まるで炎が揺れるように潤んでいる。


「椿はっ雪男とおれの誕生日いわってくれるっていってたじゃんか!!」

「ご、・・・めん」


いくら仕事とは言え、約束を破ったのは事実。
きっとわくわくして待ってたんだろうな、と脳裏に悲しそうに俯く二人の顔が浮かんで胸がちくちくした。
母親の居ない二人にとって、私は姉のように接してきたから。
母にはなれなくてもせめて姉のように、って。


「夜まで、まってもこねぇから、
もう椿は、誕生日なんかわすれたんだって」

「ごめんね、燐」


雪男はきっとこんなふうに言わない。
だから私はきっと子供の心が傷ついた事なんて忘れてしまってかもしれない。
燐くらいストレートなほうがずっとずっと、気が楽になる。


「嘘付いて、ごめんね?
約束破るつもりは無かったんだよ」


言い訳がましく燐の髪をくしゃくしゃと撫でながら呟く。
燐はされるがまま、俯いて私が撫でて物を言うのをとめない。


「仕事が入っちゃったんだ
本当は約束を守りたかったんだけど、大事なお仕事で
私も絶対行かなきゃいけない仕事だったの
一緒にケーキ食べたかったな・・・
ごめんね」


「・・・知ってる
じじいも、仕事とか言って夜まで出てたから・・・」

「そうだったんだ・・・
じゃぁ教会の人と雪男とだけで待ってたんだ・・・」


小さくこくりと頷く燐が堪らなく愛しい。
先生も仕事だったんだ。
きっと慌てて仕事を終わらせたんだろうな。

愛しい息子達のために。


「・・・ねえ、燐!!
もう約束破ったりしない!!
次は一緒にケーキ食べよう!!」


突然に声を張った私にびっくりして燐が顔をあげる。
泣いてはいないけど、確かにほっぺの膨らみが消えてる。
ニッコリと笑いながら私は燐の小さな柔らかい顔を両手で包んで言葉を続ける。


「ううん、ケーキだけじゃない
シチュー食べよう!!
あ、すき焼きもいいなぁ・・・
むしろ朝からいっしょに居なきゃね!!」


空気を読まないほどに明るく言う。
燐の顔がみるみる元気になっていく。


「っやくそくだからな!!」

「うん!!勿論約束だからね!!」


小さな小指に私の小指を絡めて指切りをする。
歌をお互いに口ずさんで、指を切って笑った。
ちらりと先生を見れば安心したように、本当の父親のように笑っている。


「雪男は?」

「へやにいる!!」

「よし!!じゃぁ部屋に行こう!!」

「おうっ!!」


うりゃー!と声を上げて部屋に向かう私たち。
紙袋を腕に掛けて両手で燐を持ち上げながら小走りにした。
少しずつ重くなる燐や雪男が少しずつ成長しているんだな、としみじみするなんて
私ももうおばさんなのか。

雪男と燐に紙袋をあげて、
思い切り抱きしめる。

あぁどうか、この子供達が幸せになりますように。
あの人に似た心のままで。









アフターハッピーバースデー
(無邪気に笑う君達に捧ぐ)








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