shortDREAM

□ハードカバーの恋愛
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珍しく、恋愛系の本を読んでみた。
ハードカバーに覆われた、
今流行りの携帯小説。
映画にコミック、挙げ句の果てにはドラマ化まで。
引っ張りだこの携帯小説を
一足遅れて、手に取ってみた。


内容は
初めて恋人が出来たけど、
恋人が死んじゃう。
そんな感じ。

帯には、
あの有名モデルが絶賛、と銘打たれていて
云万人が涙した、等とも書かれている。


私は読書は嫌いじゃないけど
こういうラブロマンス的な物はどうも好きになれなかった。
云万人が泣いた小説に泣けない私は、
ただのひがみっぽい寂しい女だろうか。

しかし、いつ見ても思うのが
この手の小説は必ずと言っていいほど恋人が死ぬ。
そして大体、女は無理矢理なんかされたりする。
最悪の場合、両方死んだり、子供も死ぬ。
喜怒哀楽、起承転結が揃いすぎてるとは思えないだろうか。


まるで、

恋人は必ず死ななければいけない本当に愛した人とは一生側には居れない
そう、言われてるみたいで。



眼鏡を上げて、本を閉じた。
栞を挟むことなく閉じられた本は、
もう読みたくない
読むつもりは無い、と意思表示。
我ながら、なんて素直すぎるんだろう、なんて。


「栞、挟まねぇの?」


ふわりと声と陰が降ってきて
私はゆっくり顔を上げる。

ネクタイをすこし緩めて、
制服を着崩した男子生徒。
同じクラスで祓魔塾に通う、同級生。


「あぁ、奥村くんかぁ」

「んだよ、俺じゃ不満かよ」

「誤解だよー」


膨れっ面の彼に苦笑を漏らして、私は訂正した。
くるくると表情が変わる
同い年の少年に可愛いは失礼かな。


「それより、栞」

「あ、うん
いいんだ」


指差された本。
本にぶら下がる紐を見て、私は首を振った。
読むつもり、無くなっちゃって、
そう笑いながら言うと
不思議そうに首を傾げられる。

いつの間にか、
奥村くんは私の隣に腰を下ろしていた。


「ラブロマンス、苦手なの」

「じゃあなんで読んでたんだ?
それ今そこらへんにある、
すっげー人気あるやつなんだろ?」

「そうだよ」


だからかなー、と私は濁して笑う。
なんで読んだのかと聞かれたら、分からない。
ただ有名だったからかもしれないし、安くなっていたからかもしれない。

よく見る絵に書かれたカップルを、
小説で読みたかったのかもしれない。


「携帯小説よりも、もっと純な恋愛の文学のほうが好き
携帯小説は、寂しいから」


読み終えた後、涙があっても
余韻がない。
まるで気の抜けたサイダーみたいに。
風味の無くなったワインみたいに。


「寂しいって、何が?
幸せなんじゃねぇの?
俺、本自体あんま読まねぇからわかんねえけど」

「奥村くんらしいね」

「そ、そうか?」


クスクスと口に手を当てて笑った。
文字を見ると眠くなるらしい。
俺は実践派だからなっ、と白い歯を見せて笑う姿が無邪気で透明だ。


「この手の最後はだいたい、恋人とお別れするから、寂しい」


風が走り抜ける中で
私は追いかけるようにつぶやく。
風の中に言葉が溶けて、
寂しいだけがいやに強調された。


「だから私は悲恋ものでも、誰かが結ばれる話が好きなんだ
寂しいものよりも」

「ふーん・・・恋、って全部がいいってわけじゃねぇんだな」

「うん、そうかも
だから私は、文学みたいな
純粋で綺麗な恋に、恋してるの」


未だに恋愛なんてしたことない15歳の、私。
手を伸ばして、すがって
少し背伸びをして
携帯小説みたいな等身大に近い恋を求めたのかもしれない。

結局、答えは無かったけれど。


ざわり、と風が中庭の植物や
私たちの髪を揺らす。
乱れる髪を押さえるように頭に手をやると、
眼鏡に手が当たって、こつりと下に転がった。


「椿」


少し躊躇ったみたいな
くすぐる声に呼ばれて顔を上げる。
眼鏡に伸ばした手がやんわり
大きな手に阻まれる。


「眼鏡、無いほうがいい」

「あの・・・奥村くん?」


握られた手がじわじわ熱い。
優しい瞳に捕らえられた私は
彼の目の中で、
ゆらりと揺れている。

顔が、赤い。





「俺も恋とか、わかんねぇ」


ぎゅっと手を握られて
私は目を丸くさせた。
なんて当たり前で、平凡で
純愛なんだろう。


「けど俺は椿が好きだ」


ぱらぱらぱら
紙が擦れる音がする。
顔を本に向けて、目を細めて文字を追いかければ

甘い、甘い
二人を誓い合うシーン。
愛を紡ぐようにキスをする
甘い、シーン。


「奥村くん」


私の声が口から零れる。
風がページをめくって


「好きです」


主人公の少女と被る声。
彼女のような、お涙頂戴な茶番はしたくないけれど
そんな恋が、意外と心地好いなんて。






ハードカバーの恋愛
(初恋は、どうか幸せであって)








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