shortDREAM

□さよならべいびー
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*この話には少し微裏要素を含みます
自己責任でお読みください。













この世界で、どれくらいの人達が
愛の無い上で
理不尽に命を産み落としているのだろう。


どこかの国で
女が自分の犯した罪から逃げるために子供を作りつづけた人が居た。
なんて自分勝手な人だろうと人は憤怒、侮蔑する。


それでも子供は生まれる。
残酷にも、
女の下腹部の奥に芽生えた時点でもう生まれているのだ。


「可哀相にね」


くすくすくす、
笑いながら私は彼にそう話し掛ける。
燐は訳がわからない、とでも言うように
私を見上げている。


「レイプされても、子供が出来るんだから
愛もクソも関係無いね、って話」


理不尽で無意味な行為。
例えそこにベッドや枕やシャワーが無くても
無理矢理に重なることは出来る。

そして可哀相なことに
双方の卵が孵化をして、
子供の出来上がりだ。
子供からすれば大変迷惑である。

勿論、女もだけど。


「そんなの、」

「仕方ない?ふーん」


生まれて来て
男親が居ない生活に、無邪気な子供は何を思うのだろう。
どうして僕にはぱぱがいないの?
と無垢な瞳が悲しげに母を見上げ、
母は一体何を思うのだろう。


「中絶すれば、なんて
男は簡単に言ってくれるけど
どれくらいしんどいか、分かるわけないか」


精神的にも
体力的にも。
男の医者に触られ、掻き出され
鈍い痛みが巣をえぐり
胸の内を引き出す。


「男には、分からないだろうね」


愛を受けずに孕んだ女の悲鳴なんて。
教科書に書かれたコンドームやピルは
いざという時役に立たない。
二人の同意が成立しない場で、一切役に立たないのだ。


伝線したタイツに
私はシャーペンを引っかける。
ぴり、と音がして
タイツには楕円の丸が出来た。


「・・・わかんねぇよ
俺に母親の気持ちなんて」


燐の寂しそうな、辛そうな表情を見て
私も眉根を寄せる。

彼には母が居ない。
きっと私の問いに答えることは出来ないだろう。


「燐、私にはね
母はいるけど愛が無いの」

「椿,」

「私は所詮汚い子供なんだよ」


時々、背中にある火傷が痛くなる。
所々に押し付けられて出来た火傷跡を視界に入れるとき
私は強く奥歯を噛み締めないと
辛くて泣き叫びそうになってしまうのだ。


「燐は優しいね」


「私の為にそんな辛そうな顔をするの?」


燐の髪を軽く撫でる。
難しい顔をしてる燐が少しおかしくて、
私は反対に少し笑う。


「優しくねぇよ」

「ありがとう燐」

「・・・・・・、っ」


腕にある印を見て
燐は顔を強張らせる。

もう半袖や可愛い水着は着れない。
出来れば肌を隠したい。
脱がなければいけない性交の為に、
好きな人のまえで火傷を、体を晒したくない。


「・・・燐は、
私の側にいてくれる?」


貴方は私の火傷を見ても
軽蔑せずに居てくれる?
貴方は自分勝手な私を愛してくれる?


「当たり前だろ」


がたり、椅子から腰をあげて
燐は強く私を抱きしめる。
ぎゅうと強く抱きしめられて少し苦しいくらい。


「ありがとう」


燐みたいに、私は一喜一憂出来ないけど
笑うことなら出来るから











自分の手の平に見えた跡を
私は愛しい思いを抱いて
軽く握りしめた。
さよならべいびー
(私の命もさよならしたいの)









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