shortDREAM

□運命的な必然
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クレオパトラの鼻があと数p低かったら、
歴史は変わっていたという。
いい方向に?悪い方向に?


じゃあ
私の鼻がもう少し高かったら
私の睫毛がもう少し長かったら
私の足がもう少し長かったら
一体何の歴史が変わったんだろう。


所詮変わって
私の男性経験くらいだ。

徹夜明けの朝は辛い。
目がヒリヒリして瞼が重い。

たんまり貯まった仕事が
容赦無く私の睡眠時間を削っていく。
私は鏡をちらり横目で見てため息を吐いた。

出張所は相変わらずの人員不足で
休み返上しても間に合うかどうか。
外でさえずる鳥の泣き声さえ
今は恨めしい。


「今日も、仕事やったんか」


襖が開いて、
袈裟姿の柔造さんが眠たそうな目をうっすら開きながら立っていた。

迫り来る欠伸を噛み殺して
私は頷いて答える。
今日も昨日も
明日も明後日もお仕事です。
お互いに。


「今さっき、書類終わらせました
これで全部のは、ずでふ」

「はは、
でかい欠伸やなぁ」

「柔造さんこそ、クマが」

「まぁ、しゃあないわなぁ」


からから笑う男は、
どかっと私の隣に腰を下ろして手を出す。
私は迷わず書類を渡した。
お決まりの作業だ。
不備が無いか、確認しなければならないものを彼がこうして点検するのは。


しかし、
何故か柔造さんはちゃうちゃう、と首を振る。


「??」

「ちょお、こっち寄り」


素直に足をずり、とすってもう少し側による。


「っうわっ、!?」


思い切り腕を引っ張られたかと思うと
柔造さんは軽々と私を引き寄せる。
あまりにも強い力で引っ張られたせいで
勢い余って柔造さんにむかって突っ込んでしまった。


「な、んですかもう・・・!!」

「堪忍堪忍」


書類がばらばらと畳の上に散らばる。
柔造さんは、
書類を避けるようにして寝転がって、
私も寝るように促した。


「柔造さん?
ここ出張所ですけど」

「ええやんか」


ごろんと横になって柔造さんは片腕を投げ出す。
腕枕、ということだろうか。

けどここは出張所な訳で、
いつ人が入ってくるかわからない。
別にやましいことは無いけれど
職場は職場としてわきまえないと八百造さんが怒りそうで怖い。

けれど柔造さんはそんなこと気にする様子も全く見せず
早くと言わんばかりに自身の隣を示している。


「・・・もう、わかりましたよ」


八百造さんに怒られても知りませんよ、と念を押して
私は彼の腕に頭を預ける。

空いた方の手が伸びてきて
私の頭を優しく撫ではじめた。
その感触がとても心地好くて
うっすら目を細めて、間近にある柔造さんの顔を見る。


「どないかしたか」


優しい声。整った顔。
垂れた目が少し可愛くて、
歳をとればきっと、八百造さんと瓜二つになるんじゃないだろうか。


私の上司であり、恋人である柔造さん。


「私が祓魔師を目指さなかったら
私は柔造さんと出会わなかったのかなぁ」


塾生として出会って
私は後輩として
そして今は上司として側にいる。

けど私があの塾に行かなかったら?
私の中の歴史は変わったのだろうか。





「そんときは
どっかで椿と会ったんちゃうか」

「なんでですか?」

「運命的なもんやろうなぁ」

「ぶはっ・・・
何ですかそれ、」


運命なんてくさいことを言われてもつい吹いてしまったけど
内心すごく嬉しくて、
私は柔造さんに抱き着くように腕を回して顔を埋める。


「・・・柔造、さん」

「好きやで、俺も」

「ぅ・・・ん、」

「もう早う寝え」


柔造さんの温かな体温とか
大きな手とか
優しい声に包まれたみたいに
心地好くて、
細めていた目を閉じる度に瞼を下ろす。


例え
私の鼻がもう少し高くても
睫毛がもう少し長くても
足がもう少し長くても
柔造さんと出会う運命は
何一つ変わらないのかもしれない。




すっかり夢を見はじめた私たちに
怒声が響くまで後・・・









運命的な必然
(この出会い)







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