次世代の物語
□れっつひんやり大作戦!
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「あぢ〜…。」
「暑いですぅ〜…。」
真夏のハルルは、今までにない高気温となった。
テーブルに突っ伏し、根をあげている両親に、その子供逹は苦笑していた。
「だっらしないわね〜。特に親父。毎日ギルドの仕事で駆けずり回ってるのに。」
「うっせ。疲れてんだよ。」
リースの言葉に少し起き上がり、再び突っ伏すユーリ。
「母さん、髪おろしてて暑くないの?帝都に居るときみたいに、バレッタで止めればいいのに。」
「えっ…と…;」
「忘れてきたんだろ。」
「はい;」
「やっぱりな」
「父さんこそ、その髪の毛結ってよ。だからバテるの」
エトリアのツッコミに、首を縦に振るリース。
ユーリは起き上がってテーブルに肘を着くと、ニヤリと笑った。
「髪紐が行方不明。」
その視線は、リースの方へと向けられている。
今日のリースは、肩で切り揃えられた髪を、少し高めの位置で結ってあった。
意味ありげににっこお…、と笑ったリースに、ユーリが左手を突き出す。
「父さん暑いから。見てるお前も暑いんなら、返した方が得だよな?」
「…ごめんなさい;」
エトリアにまでジト目で見られてしまえば、リースは大人しく髪紐を父親の手に乗せる。
「僕、てっきりユエ姉さんに借りたんだと思ってたよ。」
「お姉はあれ一個しか持ってないってさ。何故かヘアピンは大量にあんのよね。使わないのに」
「ユエは不思議な子ですね。」
「エステルの遺伝だよ。」
そう言いながら髪を結っていたユーリだが、あ、と呟いて髪を手放す。
「どしたのよ」
「…髪紐切れた。」
眉間にシワを寄せたユーリの目の前に、一本の紐が地面へ向けて力無く垂れ下がる。
あちゃー、と額に手を当てるエトリアの横では、リースが不敵な笑みを浮かべて言い放つ。
「それ、あたしのせいじゃないわよね?」
「へーへー。リィのせいじゃねぇよっ」
椅子から立ち上がり、大きく伸びをする。
それに呼応するかのように、エステルも立ち上がる。
「ユーリ、何処行くんです?」
「昼寝。」
「わたしも行きます〜!」
てとてとと走ってきたエステルに、ユーリは何か耳打ちする。
エステルが赤くなって両手をバタバタさせているところを見ると、よろしくない事であることは間違いない。
「…この暑さをなんとかするために、一発殴った方が良いわよねぇ?」
「うん。思いっきりやっちゃっても大丈夫だよ…、て言いたいとこだけどさ、手が痛くなるだけで何の効果もないと思うんだ僕。」
大きく長い溜め息をつく二人。
奥から出てきたラピードとその息子ライトの相手をしてやっていると、柔らかいソプラノと優しい少し高めのアルトが玄関から響いてきた。
「ただいま〜…ってなんかすごく暑い」
「お邪魔しま〜す…、暑っ。」
玄関へ顔を出すと、双子の片割れと、彼女逹がよく知るクリティアの少女がいた。
「あれルージュ。どしたのこんなところまで。」
近くまでやって来たリースとエトリアに、はぁい、と笑顔を向けるルージュ。
ユエが代わりにリースの問いに答える。
「帰り、アスラに乗せてきて貰ったの。」
「うん。両親と兄さんから逃げたかったからアスラを呼んだの。そっちなら、とやかく言われないから。」
うんざりとした顔で話すルージュの片手で、彼女の相棒である槍『シヴァ』が鋭く光る。
三人は内心冷や汗をかきつつ、大変だね〜、と相槌を打つ。
「大変なのはお互い様でしょ。」
にこっと笑って家の奥へ目をやる彼女には、今何が起こっているのか判っているようだ。
「大丈夫。ホントに昼寝みたいだから。」
但し、同じベッドでね。
「「「………」」」
こんのくそ暑い中で…。
口には出さないが、心の声ははっきりと重なった。
「ここまでハルルの気温が高くなったのって、父様と母様のせいなのかな…。」
「それ以外、どう説明すんの?」
「そんな非科学的な…」
「帝都とアスピオでも、過去最高気温だって。」
「「「「バカップル爆発しろって感じだよね」」」」
四人の声が見事にハモり、溜め息の音が静まり返った家内にやけに大きく響く。
暫くの沈黙の後、ルージュがぽつりと呟いた。
「いっそのこと、涼しくなるようにしよっか。」
愉快そうに笑うルージュ。
意味が分からず首を傾げているリースとエトリアだったが、ユエはルージュの考えに察しがついたようだ。
まるで父親のような―不敵で意地の悪い笑みを浮かべると
「その話、乗った。」
ルージュと手を組んだのだった。